34年前の「俺たちやったぜ(やっちゃったぜ)」なホンダのバイク
走り出すと、まずエンジンが発生する強力な低速トルク(ざっくり言うと、回転する力の大きさ)に驚く。かつての2ストエンジンは、設計で狙った回転域以外のトルクが小さいという弱点があったが、この年代のバイクになると技術の進歩で弱点を解消している。 私は若いころ、NSR250Rの10年前、1980年発売の2スト250ccエンジンを積んだヤマハ「RZ250」に乗ったことがある。RZ250のエンジンは6000rpm(revolution per minute:回転/分)まで、トルクが細く、アクセルを開いてもなかなか速度が上がらなかったが、6000rpm以上になると、ぐぐっとトルクが盛り上がり、そこから9000rpmまで回転が一気に上がるという特徴を持っていた。それだけ乗りこなすのは難しく、逆にクラッチワークとシフトチェンジでうまく乗りこなす面白さもあった。1990年のNSR250Rには、そういう難しさ(と、難しさに伴う面白さ)はない。 ●乗ってしまえば笑えるくらい乗りやすい では乗ってつまらないかといえばそんなことはない。太いトルクのまま6000rpmを超えると、やはり爽快にエンジンは吹け上がり、実に楽しい。 エンジンパワーを支える車体は、笑っちゃうぐらいに乗りやすい。1980年代から90年代にかけてのバイクは、フレーム(車体の骨組み)が急速に進歩した時期だった。それまでは鉄の丸いパイプを曲げたダブルクレードルという形式のフレームが一般的だったが、アルミ合金を押し出し成形した角パイプを使ったフレームが出現し、さらにはアルミ合金鋳造材や、アルミ合金プレス材を溶接したフレームなどが出現した。 背景にはタイヤの進歩とエンジン出力の増加により、ダブルクレードルよりも剛性の高いフレームが必要になったという事情があった。剛性は高く、しかし重量が増加してはいけないということで、アルミ合金がフレームに使われるようになったのである。 剛性を求めた極致が、前出の1988年型NSR250R(MC18)のフレームだ。エンジンのパワーとタイヤが路面をグリップする力を逃がさずがっちり受け止める車体になったが、融通が利かず乗りにくくなってしまった。 そこでこの1990年式NSR250R(MC21)では、「必要に応じてフレームの剛性を低くして、たわむようにする」という設計が採用された。MC21を側面から見るとステアリングヘッドから後輪スイングアームの軸までずどんと太いアルミ合金フレームが一直線に走っているのが見える。が、このフレームは縦方向にこそ太いが、表からは見えない車体の左右方向にはかなり薄くなっている。つまり左右方向には車体がしなるようになっている。 そのような設計のおかげか、MC21はむしろ走るのが簡単かつ楽だ。多少理想と違ったライン取りでコーナーに入っても、簡単に修正できる。 特筆すべきは、その「コーナーリング力の高さ」だ。具体的にはあまりきつく車体を傾けなくてもくるっと車体の向きが変わってくれる。つまり、車体を傾ければ傾けるほどそれだけ高い速度でコーナーを回ることができるし、逆にゆっくりした速度では、コーナーリング中に車体の傾け方を修正すれば、それだけで走行ラインを変更できる。つまりコーナーリング中になにか危険を察知した場合も余裕で回避することができるわけだ。 1990年当時の自分は、あまりNSR250Rのようなレーサーレプリカが好きではなかった。それこそつくだ煮の小魚ぐらいいっぱい、見かけていたからだ。そんな小魚たちの中には、粋がって山中のワインディングロードをとんでもない速度ですっ飛ばす者もいて、箱根で、時折自損事故を起こしているのも見た。 もともと私は長距離ツーリング指向だったので、「ああいう『速度こそ命』のおバカさんとは一線を画していたい」という意識が強かったのである。 が、34年を経て実際にNSR250Rに乗ってみて、納得した。