「誰も性暴力の被害者・加害者にしない」Z世代起業家が手掛けるジェンダー教育【SISTERS・鈴木彩衣音】
「相手と自分の境界線を守ることは、自分も相手も尊重することにつながります」 東京・原宿の高校で、ジェンダー教育の授業を担当しているのは、鈴木彩衣音(すずき・あいね)だ。 【全画像をみる】「誰も性暴力の被害者・加害者にしない」Z世代起業家が手掛けるジェンダー教育【SISTERS・鈴木彩衣音】 今日の授業のテーマは「コミュニケーション」。授業ではほかにも「ジェンダーと多様性」「性暴力の被害防止」などが主題に据えられる。
受講生の9割以上が「認識変化」
鈴木は新卒2年目の時、「ジェンダー・ギャップの是正」を目標を掲げ、株式会社SISTERSを起業した。SISTERSは、学生を対象としたジェンダー教育のための授業を主力事業とし、「誰も性暴力の被害者・加害者にならないための予防」を目的として、中学校や高校に赴いて授業を行う。 そもそも性暴力とは何なのか、もし被害を受けてしまったらどうすれば良いのかといった内容から、経済的な暴力やモラルハラスメントなどを含むデートDVについて、あるいはSOGI(性的指向、性自認)などジェンダーやセクシュアリティに関する基礎情報などを幅広く扱う。学校や生徒の状況に合わせて、柔軟にテーマを選べるようにと考えた結果、授業のレパートリーはどんどん増えていった。 現状、授業を受けた生徒や学校へのアンケートでは満足度94%と好評だ。「性暴力という言葉が、授業を通して初めて自分ごとになった」「痴漢や盗撮などが暴力、犯罪であると初めてちゃんと認識できた」。生徒からはそんな率直な感想が寄せられる。 アンケートの自由記入欄には「困っている人がいたり、友人に性暴力に関する相談をされたりしたら、優しい声かけができるようにしたい」と書く生徒も2割ほどいるという。 「授業を通して意識が変わっているのであれば、やってよかったなと思います。学校でやる授業だからこそ、二次被害を防いで、周りの人と良いコミュニケーションを取れるようなアイデアを伝えるようにしたいとより強く思うようになりました」
ジェンダーギャップは"私の問題"
SISTERSを運営する鈴木は東京生まれ、4人家族で育った。家族仲が良く、本人曰く何不自由ない環境で幼少期を過ごしたという。 鈴木が社会課題に関心を持ったきっかけは、中学生の頃に受けた社会科の授業だ。第一次世界大戦の映像を目にし、自身の安定した暮らしと、戦争、貧困、差別など世の中の不条理とのギャップに大きなショックを受けた。 「ショックで数日間、寝込んでしまったんです。けれど、学校に行っても友達たちは『怖かったよね』『グロかった』と言うだけ。映像を見ても自分みたいにくらってしまったり、社会の問題を自分事のようにとらえる人って実は少ないんだと思いました。 大きなショックを受けるくらい、世の中の課題に強く関心をひかれるなら、それを人に伝えたり社会を変えたりする活動ができるようになりたいと思うようになりました」 社会課題と言ってもさまざまなものがある。その中でも、ジェンダー・ギャップに関心が向いたのはなぜなのだろうか。 鈴木は1999年生まれ。中高生の頃に注目を集めていたのが、パキスタン出身のフェミニストで人権運動家のマララ・ユスフザイ氏の活動だ。ニュースでよく名前を聞いていた彼女の著書『わたしはマララ』を何気なく手に取ったことをきっかけに、ジェンダー・ギャップの問題に大きな関心を寄せることになる。 「当時の私は、自分自身が困った経験がなかったので、ジェンダー・ギャップの実態もフェミニズムの重要性もよく分かっていなかったんです。でも、世界にはまだ大きなジェンダー・ギャップのある国が存在するんだと気づきました。将来は国連などに就職して、女性が厳しい立場に置かれている国で支援活動ができればと思うようになりました」 ジェンダー・ギャップの課題に関心は向いたものの、高校生の時点では「海外で起こっている問題」という感覚が強かった。しかし、徐々に自分ごとだと感じるようになる。 「女性学の勉強会に行ったり、フェミニズムの本をたくさん読んだりする中で、『あれ?これって私の問題じゃない?』と感じるようになりました。 高校時代に社会課題を解決するための活動に参加しているときに、『女の子だから』と言われたり、見た目でジャッジされたりといった経験があったんです。 毎回、『嫌なことを言われたり、されたりする原因は私にある』と思い込んでいたのですが、実はそうではなく、社会構造的な問題が原因だと気づいて。目から鱗でしたし、自分が救われました」 その後、大学に入学した鈴木は、ある教授から「日本だって、ジェンダーの分野では途上国レベル。海外に目を向けるのも良いけど、日本は放っておいていいの?」と鋭い指摘を受ける。この経験が日本にもジェンダー・ギャップの問題があることをより強く意識するきっかけになった。