「誰も性暴力の被害者・加害者にしない」Z世代起業家が手掛けるジェンダー教育【SISTERS・鈴木彩衣音】
性暴力は身近な課題
ボーダレスジャパンで学んだことを活かし、2023年7月、株式会社SISTERSを創設。念願のジェンダー・ギャップの是正を目的とし、性暴力被害・加害の予防のためのジェンダー授業に注力している。「性暴力」というテーマに絞り込んだのには、こんな理由がある。 「残念ながらジェンダー・ギャップに関わる課題はたくさんあるので、必要な取り組みもたくさんあります。けれど、性暴力は自分自身や友人が経験したことのあるものなので、課題として私には特に身近なものになっていました。だから、まずはここから取り組もうと決めました」 とはいえ、起業直後からジェンダー授業を実施していたわけではない。最初は、より直接的な課題解決を目指すべく、性暴力被害者へのカウンセリングや支援窓口との連携事業を行っていた。 サービスを始めてみると、カウンセリングに訪れるのは被害から長い時間が経った人がほとんど。「専門家ではない自分が助けになれることが少ない」と感じた鈴木は、若い世代が性暴力の被害者、加害者にならないための予防を行うべく、事業の方向性を転換することにしたのだった。
資金調達時、ホテルに誘われる起業家も
ジェンダー分野に限らず、社会課題解決とビジネス的な効果を両立することは難しい。実際、鈴木もその点には苦戦してきた。 現在SISTERSは、企業向けの研修と学校向け研修を事業の2本柱としている。企業向けプログラムと比較し、学校向けのプログラムはビジネス的な効果が高いとは言えない。しかし、学生に教育をすることは、将来のジェンダー・ギャップの是正にとって非常に重要だ。 「お金になるものと社会課題の解決に結びつくもの、そして自分がやりたいもの、そのバランスにはいつも悩んでいます」 最近、鈴木は大きな決断をした。学校向けのジェンダー授業を実施するNPO法人と、企業向けの研修サービスを行う株式会社として、組織を分けることにしたのだ。学校向けに授業を提供する事業は、非営利組織として助成金を得ながら継続する選択をした。 企業向けには、企業研修においてハラスメント研修を行ったり、スタートアップ支援施設や起業家支援プログラムのなかでコミュニティマネージャー向けにジェンダー分野の研修を行ったりしている。 スタートアップ界隈に身を置いてきた鈴木は、資金調達の際に、投資家などからホテルに誘われた経験のある起業家の話を耳にすることもあったという。性暴力の被害者、加害者にならないための“教育”は、社会人においても重要な事項なのだ。 事業形態の検討の過程では、American Expressの起業家支援プログラム「INNOVATOR's LAB」に参加した経験も役に立った。2024年7月から数カ月間にわたって、メンターや講師からの学びや同じような課題を持つ若手起業家との合宿を通じて事業をブラッシュアップできるコミュニティ型のプログラムだ。 「NPOにするかどうか、悩み過ぎてよく分からなくなっていたんですが、客観的に意見をいただけたのでとても助かりました。他の起業家やメンターの方々と話したおかげで、自分自身の決断をポジティブに捉えたり、スピード感を持って取り組んだりする力がつきました。 メンターがジェンダー・ギャップの課題に詳しい方々だったので、私の悩みにも丁寧に答えてくださって心強かったです」