上野千鶴子さん【二拠点生活】大切な人を看取って今思う、終の棲家とは
東京⇔山梨 おひとりさまの二拠点生活のリアル
日本の女性学の第一人者であり、近年は「おひとりさま」で最期まで自宅で暮らせるかをテーマに、介護・医療現場を精力的に取材している上野千鶴子(うえの・ちづこ)さん。約20年前から山梨と東京の二拠点生活を続けている上野さんの山の家を訪ねました。
上野千鶴子(うえの・ちづこ)さんのプロフィール
1948(昭和23)年富山県生まれ。社会学者。東京大学名誉教授。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。女性学およびジェンダー研究の第一人者。最新刊『こんな世の中に誰がした? ごめんなさいと言わなくてもすむ社会を手渡すために』(光文社刊)他、著書多数。
今はひとり、静かに過ごす時間が至福のとき
八ヶ岳南麓、標高1000mの山林地帯。未舗装のデコボコした砂利道を進んでいくと、木立の中に上野さんの山の家が現れます。「どうぞ」と迎えられ、仕事場にもなっている建物に入ると、目に飛び込んでくるのは、天井まである壁一面の書棚です。 「ここは書庫でもあるんです。私は“おひとりさま”でいるのが平気な人なので、たくさんの本に囲まれて一人で読んだり、書いたりしている時間は至福ですね。シーンと静かで、時々鳥が鳴いて、図書館で暮らしている感じ」 そう語った直後、頭上から「ドン!」という衝撃音が。 「鳥がはめ殺しのガラス窓に激突しましたね。私の本『八ヶ岳南麓から』にも書きましたが、大量の蛾が窓にガツンガツンと体当たりしてくることもあるし、ヤスデや毛虫が大発生することもある。やっぱり自然の中は大変ですよ」
50代半ば、もう一つの居場所を探して二拠点生活に
上野さんがこの土地を手に入れたのは50代前半。八ヶ岳南麓に定住していた友人から「ひと夏、海外で過ごすから、家を借りて住まない?」と言われたのがきっかけでした。 「ひと夏過ごしてみると、涼しいし空気はいいし食材が新鮮だし、すっかりはまってしまった」と上野さん。その夏の終わりには、不動産屋に飛び込んで土地を探し始めたそう。 「友人を通して八ヶ岳に定住している人たちとお近づきになり、ここでの暮らしをいろいろ聞きました。八ヶ岳に移住してくる人は、ほぼ定年前後。 中には、仕事の場が東京にあって、50代くらいから東京と八ヶ岳を行ったり来たりしているうちに、だんだんと軸足が山の方に移ってきたという人もいて、なるほど、悪くないなと思いました」