なぜ森保ジャパンは「絶対に負けられない中国戦」で5バックの守備的相手に1-0勝利できたのか…追加点奪えない課題も
一気にスピードを上げて中国の最終ラインの裏へ抜け出し、宙を舞いながら懸命に右足を伸ばす。足裏あたりにヒットしたボールは、反対側のネットへ吸い込まれた。 「試合前に(伊東)純也と話していた通りのボールが来たし、いいゴールだったと思う。最終予選には簡単な試合はひとつもないので、我慢を続けながら決めるべきときにしっかりと決めようと心がけていた。次も厳しい戦いが続くので頑張っていきたい」 決勝ゴールをこう振り返った大迫は、オマーン戦では得意とするポストプレーで精彩を欠き、味方から預けられた縦パスを何度も奪われた。ブレーメンから神戸へ移籍し、2週間の自主隔離期間をへて全体練習に合流した直後にJ1リーグの戦いへ復帰。2戦連続で先発し、代表に合流したコンディションは決して万全ではなかった。 「オマーン戦で負けた責任を一人ひとりが感じてくれた結果として、中国戦へ向けたトレーニングからは強い覚悟とリバウンドメンタリティーが伝わってきた。集中力とクオリティーが高く、球際における強度も高い内容だったと思っている」 大迫だけでなく無所属状態が続く長友、今年に入ってA代表戦から遠ざかっていたボランチ柴崎岳(29・レガネス)を引き続き先発させた意図を、森保監督はこう説明した。その上で、オマーン戦後に吹き荒れた批判の嵐をこう受け止めている。 「私自身は見ていないが、いろいろな記事が出ている状況は知人からの連絡でだいたい想像はついた。ただ、私の職として一戦一戦、常に生きるか死ぬかの覚悟を持っている」 吉田が言及したように、中国戦の内容はほめられたものではなかった。 ボール保有率で70%をマークし、シュート数でも18対3と圧倒。なおかつ中国が放った枠内への一撃はゼロだったが、対する日本の枠内シュートも大迫の決勝点以外は前半の久保、後半に柴崎が放った無回転のブレ球ミドルの2本にとどまった。 オーストラリアとの初戦に続いて枠内シュートがゼロに終わるなど、チームとしての体をなしていなかった中国から追加点を奪えない課題は残った。それでも後半途中からシステムを[4-4-2]に戻し、エウケソンに加えてブラジルから帰化したFWアラン、アロイージオを同時に投入してきた中国戦を、吉田はトータルでこう振り返っている。 「息の根を止めることはできなかったけど、イレギュラーで失点するおそれもあった」 何よりもピッチに送り出された選手たちの踏ん張りで手にした勝利で、失いかけた自信をつなぎ止めた上で10月の2試合へ挑める意義は大きい。アウェイでサウジアラビア、ホームでオーストラリアと勝ち点6でグループBのトップに並び、得失点差で後者がトップに立つライバル勢との連戦を、吉田は「前半戦のカギになる」と言い、こう続ける。 「ヨーロッパとサウジアラビアは時差もわずか1時間だし、移動距離も短い。今回と試合の間隔も短いので、戦術などの刷り合わせにもそれほど時間はかからない。何よりもオマーン戦の負けをこんなにも早く取り戻せるチャンスが目の前にある。もう一敗もできない僕たちのモチベーションは、非常に高くなると思っている」 宿泊ホテルでのオンライン対応を終えた選手たちは、カタール時間の8日未明にはヨーロッパ各地へ戻る機上の人となった。再会への合言葉は決まっていると、カタール入り後には選手同士のミーティングを介して中国戦への士気を高めてきた吉田は言う。 「疲れなどが言われるかもしれないけど、それでも自チームで試合に出よう」 森保監督も2週間の自主隔離期間が設けられる日本へは帰国せず、齊藤俊秀コーチとともにヨーロッパへ渡る。日本サッカー協会の拠点があるドイツを中心にヨーロッパ組が所属するクラブを行脚し、そのままサウジアラビアとの第3戦へ向かう異例とも言えるスケジュールが組まれた。次なる戦いは、すでに始まっている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)