時計の歴史に残した偉大な足跡 ハミルトンの「ベンチュラ」伝説を紐解く
他に類を見ない左右非対称のトライアングルケース
左右非対称のトライアングルケースという先駆的かつフューチャリスティックなデザインを纏った「ベンチュラ」は、人々に喝采をもって迎えられた。
「近未来やポップなテイストを特徴とするミッドセンチュリー・モダン期でも、ベンチュラの大胆なデザインは圧倒的な存在感を放っていました。ドットのインデックスは原子を、文字盤のラインはオシロスコープ(電気信号を視覚的に表示する機器)をモチーフにしています」
アシンメトリーなデザインは、生産面でのハードルも高くなる。ケース・風防の成形が難しく、かつケース自体も複雑な形状のため、仕上げにも時間がかかるという。
また、「ベンチュラ」は「世界初の電池式腕時計」としても時計史に名を残している。 「従来のゼンマイのかわりに小型電気モーターでテンプを駆動させるエレクトリック機構を搭載していました。研究開発チームがおよそ10年をかけて開発したこの機構は、機械式時計と1960年代に登場するクオーツ式ムーブメントの架け橋となる画期的なものでした」 当時、このモデルがいかに画期的な時計であったかを示すエピソードがある。 「ベンチュラを見た発明家のジョン・ヴァン・ホーン氏がこう言ったそうです。『車のフェンダーにフィンを取り付けようという時代に(1950年代は自動車が普及し始めた時代)、この腕時計の未来を予言することなどできない』と。なぜならハミルトンはすでに盾形のフィンをベンチュラのケースに取り付けていたからです」 価格は当時で200ドルほど。これは現在の2,000ドル以上の価値にもなり、当時としてはかなり高級な腕時計だった。にもかかわらず、発売と同時に1万2,000個以上という驚異的なセールスを記録した。
“キング・オブ・ロックンロール”が公私にわたって愛用
そんな「ベンチュラ」は“ある男”との出会いによって、さらなる輝きを放つことになる。
発売から4年後の1961年に公開されたミュージカルコメディ映画『ブルー・ハワイ』で、ロックンロール界のスーパースター、エルヴィス・プレスリーの腕元を飾ったのだ。