ていねいに暮らしたいけど、忙しくて出来ない人へ。長谷川あかりさんが考える料理のヒント
「こういうレシピを作りたい」と考えることが好き
小竹:自分のレシピをこういう人に届けたいという具体的なイメージは持っているのですか? 長谷川:SNSで料理を発信しようと思ったときに「誰を助ける料理でありたいのか」ということをすごく考えました。自分が作る料理なので、基本的には自分と近しい属性の人にはなるのですが。例えば、都内在住のディンクスないし、小さなお子さんが1人いるくらいの年齢で、ご飯にお金をかけたい、おいしいものでカロリーを摂りたい、適当に食事を済ませたくない気持ちが強めの人。お洋服も割とお金をかけたい、ていねいな暮らしのYouTubeを見るのが好きだけど、私生活が忙しいからていねいには暮らしきれないことに悩んでいる人(笑)。 小竹:具体的(笑)。 長谷川:何を考えて過ごしているか、どういうものが好きでどういう思考回路で動いているか、外食はどういうお店に行っているかとかまで、すごく具体的に考えていますね。 小竹:それはレシピでも割と一貫していますか? 長谷川:基本的に全てそういう軸でレシピを作っています。でも、そういう方にしか届けたくないわけではなく、対象者を尖らせた方が逆に広がりやすいと思うんです。自分の軸がブレると結局誰にも刺さらないので。自分の強い意思がないとレシピもぼやけてしまうから、一貫性は全て持たせるようにしたいと思っています。 小竹:うんうん。 長谷川:あと、作ってくださる方が「これは長谷川あかりさんのレシピだ」と作成者を見なくてもわかるレシピにしたいです。私がレシピ本にハマっていたときに「これは○○先生のレシピっぽい」と思って名前を見ると、その先生だったことが結構あったんです。レシピを見ただけで私だとわかってもらえるようなものを一貫して出し続けたいと考えると、こういう人に届けたいレシピというのを自分の中に強めに置いておくのは必要なことだと感じます。 小竹:そもそも長谷川さんは料理が好きですか? 長谷川:最近気づいたのですが、私は料理が好きなのではなくて、「こういうレシピを作りたい」って考えるのが好きなんです。実際に料理はたぶんそんなに好きではない気がします。 小竹:そうなんですね(笑)。 長谷川:こういう料理を作れる人間でありたいし、こういう料理を作って食べたいけど、こんなに手間はかけられないという自分がいるから、こういう料理を作っているかのような気持ちにさせてくれるインスタント簡単ていねい料理を考えようと思う。 小竹:インスタント簡単ていねい料理(笑)。 長谷川:料理が好きでプロの調理技術を持っていると、ついていけない領域に入ってしまう。それはそれでもちろん需要があるけど、家庭料理レシピを発信する上では、そこまで料理が好きではないけどやりたいことは高いところにあるという私の裏腹さのおかげで、“ハイエンドな料理を作っている気持ちにさせてくれる簡単料理”という新しいジャンルに踏み込めている気もするんです。 小竹:なるほど。 長谷川:素敵な料理を作りたい気持ちもなくて料理もそんなに好きではない人は、もっと簡単料理寄りになって、それはそれですごく人気があるジャンルです。私は、こういう料理を作りたいけど手間はかけられないが、手間をかけた実感はほしいみたいなめちゃくちゃなことを言っているんです。大きな声でこんなにめちゃくちゃなこと言う人はあまりいないと思う。 小竹:全くいないです(笑)。 長谷川:めちゃくちゃなものをどう成立させるかというのを考えるのはすごく好きなので、それが自分の個性になっていったらいいなと今は思っています。 小竹:今後やってみたいことは? 長谷川:このレシピがおいしいということ以上に、このレシピがどう生活に馴染んで、その人にとってどういうポジションで残っていくのかということにやっぱり興味がある。 小竹:うんうん。 長谷川:今はSNSや本で文章をベースにレシピを伝えてたくさんの方に作っていただけていますが、ストーリーを絡めてレシピを見せていけたらより具体性を持って、自分の生活に馴染んでくれそう、自分の生活を良くしてくれそうと思ってもらえるかなと感じています。 小竹:なるほど。 長谷川:例えば、ドラマや漫画でストーリーとともにレシピをお届けするという形が実現できないかなとぼんやり考えています。ドラマのレシピ監修をしたり、レシピとドラマを連動させたりなど、うまくレシピと絡めて見せることができたら、より自分事になるし、レシピも魅力的に見える気がします。 (TEXT:山田周平)