ていねいに暮らしたいけど、忙しくて出来ない人へ。長谷川あかりさんが考える料理のヒント
クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」。食や料理に熱い思いを持ち活躍するゲストを迎え、さまざまな話を語ります。クックパッド初代編集長の小竹貴子がパーソナリティを務めます。今回は、料理家の長谷川あかりさんがゲストです。 ◇ ◇ ◇
“バズるような料理”を届けたいわけではない
小竹:この番組の第1回目のゲストの有賀薫さんが「スープはバズらない」と言っていたのですが、長谷川さんがレシピを投稿するとすぐにバズりますよね? 長谷川さん(以下、敬称略):そんなことないですよ(笑)。 小竹:最初に1万いいねついたレシピは「魚介中華粥」だそうですね。 長谷川:よくこれがバズったなって今でもすごく思うのですが、最初にバズったのは中華粥ですね。
小竹:そもそもレシピ投稿を始めたのはいつからですか? 長谷川:大学を卒業して時間ができてからなので、2022年の4月に始めて、そこから2週間くらいでこの中華粥でバズって…。本当にびっくりしたんですよね。 小竹:え!?すぐじゃないですか? 長谷川:なぜバズらないと思っていたかというと、有賀先生がスープはバズらないと仰っているのと似ているのですが、バズるような料理を届けたいわけではないというのが大きくて。 小竹:そうですよね。 長谷川:だから、バズらなくて当たり前だと思っていて、そのバズらなさがいいというのは自分の中でありました。この魚介中華粥もバズりそうには思えないですよね。 小竹:しょっつるとか太白ごま油とかって書いてありますもんね(笑)。 長谷川:そう!しょっつるに太白ごま油にホタテ缶に、最後に鯛のお刺身を乗せている。手軽でもないし、40分煮るから時間もかかるし。絶対にバズらないじゃないですか。 小竹:たしかに。 長谷川:どう考えてもバズらない料理だけど、絶対においしいし、体的にも心地がいいし、気温や体調にもマッチすると思って投稿したらバズったので、意外とこういうバズらない料理をみんなは求め始めているのかなって気づいたんです。 小竹:誰かがシェアしたとかではなく、じわじわと拡散されていった感じだったのですか? 長谷川:投稿して1時間くらいで2000いいねとか、すごい勢いで伸びたので、なぜだろうと少し不安になりました。寒暖差で春バテしている方に限定して投稿したので、「私だ!」と思ってくれた方が多かったのもあると思います。 小竹:うんうん。 長谷川:「中華粥」という多くは語らずとも体にいいと感じさせる料理名も良かったと思います。だしの素を入れていないことも驚かれたので、シンプルな調味料で旨味が再現できたら料理上手な気がしてうれしいといった点もあったのかも。自分事としてレシピを捉える方が多かったのも要因の1つの気がしますね。 小竹:でも、このときは何もわからなかったのですよね? 長谷川:何もわかっていないです。自分が発信したい料理を当時はまだうまく言語できていなかった。簡単すぎず難しすぎず、バズるレシピではないけど、ちょっとおしゃれで作ってみたくなるみたいなぼんやりとした理想の家庭料理が自分の中にあって。言語化できないからバズらないだろうと思っていたけど、そのぼんやりさを求めている方が結構多いのかもとここで気づきましたね。 小竹:レシピを作るときにはそういった意識を大事にするようにもなりましたか? 長谷川:なりましたね。料理は生活の中に溶け込んでいくものだから自分事になる。おいしそうとかではなく、自分の生活に馴染む、自分の体の状態を良くしてくれるレシピだというのを想像してもらえるような文章はすごく意識しています。 小竹:大事なことですよね。 長谷川:やみつきとか沼るとか、いわゆる料理のバズワードみたいな方向性ではなくて、今の気温がこうだからこういう体調にこう馴染んでいって、自分はこういう気持ちになったとか。生活の中に取り入れられそうだと思ってもらえる文章や材料、料理名などを意識しています。 小竹:料理のことよりも、あなたにとってという感じですね。 長谷川:そうですね。「この料理がおいしいです」より「この料理はあなたをこうさせてくれるものです」という伝え方のほうが、自分の理想としているところに近づけるなと思います。