「自粛要請」から「過料」は本当に効果があるのか、行動経済学者に聞く
「過料」の効果は期待できるが……
では、改正特措法などの規制に、感染拡大防止の効果は見込めるのだろうか。 まず、今回の改正では、飲食店が休業命令や営業時間短縮命令に従わなかった場合、30万円以下の過料を科すようになった。これまでは時短要請に応じれば給付金や協力金を行政が支払う「太陽」政策だったのが、真逆の「北風」政策に転換した。ただでさえ経営が厳しい飲食店からは当然不満の声が高く、メディアの論調も批判的なものが多い。 佐々木さんは「飲食業界の方たちの苦境は私もよく伺っていますし、頑張ってほしいし応援したいと思っています。その上で敢えて経済学的な見方を申し上げると、過料の設定による効果は期待できると私は考えています」という。 「経済学では基本的に、協力したことで得られる協力金も協力しないことで取られる過料も、ようは同じインセンティブ(目的達成のための誘因)と考えます。過料は、もともとあった協力金というインセンティブの量を増やすものと考えられます」 「なので、今まで協力金の金額だと営業を続けていたほうが得だと考えていた飲食店のなかにも、協力金+過料というインセンティブの増額によって、時短営業に協力するお店が出てくると考えられます。協力すれば、協力金を得られた上で過料を免れられるので」 しかしそれなら、協力金をさらに積み増しする、という方法は考えられないのだろうか。 「協力金がない状態のときに『協力金が出ます』というのは政策的にインパクトがあります。しかしすでに協力金がある状態で、さらに出しますというのは、やはり導入時に比べてインパクトが弱くなると思います。最初の一歩は大きいけれど、だんだん効果は逓減していく。そこで過料という、逆方向からのインセンティブを設定することで、効果がより大きくなることが期待できます」 「また、行動経済学的には、時短に協力する飲食店が増えることで、人々も自粛要請に協力しやすくなります。ケーキを目の前に置きながらダイエットすることは難しいので、そもそもケーキを目の前に置くことをやめる、という対策のほうが効果は見込めます」 次に改正感染症法に移ろう。同法では入院拒否や入院先から逃げると50万円以下の過料、濃厚接触者を特定するため保健所が行う疫学調査を拒否した場合、30万円以下の過料の対象となることが定められた。 「まずこの点については、刑事罰が検討されていたときに日本公衆衛生学会と日本疫学会から共同声明が出されました。そこでは過去のわが国の歴史を照らし合わせて、感染者への差別を助長しかねないことや、入院を避けるために検査結果を隠したり、検査そのものを忌避したりする可能性があることが指摘されています。この点については私も同意します」 「一方で、こういう措置が待っているということ自体、感染リスクのある行為を避けさせる効果も期待できます。一種のアナウンス効果ですね。とはいえ先ほどの声明文の指摘もあり、ジレンマのあるところです。また、国民の行動変容だけに頼らない施策をもっと充実させるべきではないか、という気持ちもあります」 法による行動制限は当然痛みを伴う。しかし一定程度の効果は期待できそうだ。