「自粛要請」から「過料」は本当に効果があるのか、行動経済学者に聞く
本当に必要なのは医療体制の充実
さて、2月からいよいよワクチンの接種が始まった。佐々木さんたちは、1月に、このワクチンの接種意向に関する全国規模の調査を行った。ワクチン接種の希望者は感染が拡大している状況下では増えて、感染が縮小傾向にあると少なくなっていくそうだ。 「日本の課題は、ワクチンが一般にまで行き渡る時期と、感染が落ち着くであろう時期が重なっていることです。これから春先から夏にかけて、いったん感染者数は落ち着くでしょう。医療機関にもやっと余裕ができる。その時期にワクチン接種を進めていきたいのですが、人々の危機感は薄れて、ワクチン接種の積極性が下がる可能性がわかってきました」 「『基本的には接種しようと思っているが、今すぐに接種しなくてもいいかな』と考えて接種を先延ばしするような人を、どのように実行まで導いていくか。ここには、やはり呼びかけの工夫が必要で、行動経済学が貢献できるところだと思っています」 2度目の緊急事態宣言解除の予定日は、3月7日。感染者数下げ止まりも指摘されているが、特措法などの改正は、果たして感染拡大抑止の妙薬となり得るだろうか。 佐々木さんは最後にこう話す。 「ワクチンが行き渡るまで、また将来の新しい感染症に向けては、自粛要請や規制とは違う、人々の行動変容に頼らない施策の充実が必要だと思っています。昨夏ごろには医療提供体制の拡充についていろんな研究者から政策提言がなされていたんですが、残念ながら動きが鈍く、今冬には間に合いませんでした。もしこの対策がうまくいっていれば、2度目の緊急事態宣言はなかったとも言われています。今回の緊急事態宣言中にどれくらい整備が進んだのか? 第3波が収まったとしても、この動きが鈍化しないように、今度は国民が政府をナッジする番です」 --- 佐々木周作(ささき・しゅうさく) 東北学院大学経済学部准教授。博士(経済学)。京都大学経済学部卒業後、三菱東京UFJ銀行に入行。退職後、大阪大学大学院、日本学術振興会特別研究員DC1およびPD、京都大学大学院経済学研究科特定講師を経て現職。専門は応用ミクロ計量経済学、行動経済学。環境省、経済産業省、横浜市などのナッジ・ユニットの有識者やアドバイザーを務める。著書に『今日から使える行動経済学』(共著、ナツメ社)など。