「自粛要請」から「過料」は本当に効果があるのか、行動経済学者に聞く
新型コロナにメッセージだけで対抗するのは難しい
ここで疑問に思うのは、これまでナッジを活用した「自粛要請」が有効に働いたとすれば、今後もそれを継続すればいいのではないか、ということだ。特措法を改正して、過料などの強制力をもたせる必要はあったのだろうか? 「実は、ナッジ・メッセージの効果はずっと続くわけではないんです。刺激が繰り返されると反応は減退していきます。専門用語で『馴化(じゅんか)』と呼ぶのですが、ようは慣れっこになって効かなくなる、ということ。この現象は、報酬や罰を伴わない、中立的な刺激に対して起こりやすいといわれています。私たちの研究でも、先ほどのメッセージBを1、2カ月経ってから改めて提示しても、効果はみられなくなっていました」 また、国民に求められる行動変容の内容が、1度目の緊急事態宣言の後は複雑化していると佐々木さんは指摘する。 「1度目の緊急事態宣言では、とにかくステイホーム、人との接触をできるだけ減らすというシングル・スタンダードでした。それが解除後は、感染予防を徹底しながら経済活動も重視するというダブル・スタンダードになった。『飲食店を利用しながら、感染予防は徹底してできるだけ会話しないように』という要請は、ケーキを目の前に置きながら、それは食べずにダイエットせよという要請に似ていて、忍耐力が必要でとても難しい」 何が良い行動で、悪い行動かがわかりにくくなった。外出自粛は医療機関の負担を配慮した行動だが、重症化リスクの低い人が可能な範囲で街に出て消費を続けることも、慣れ親しんだ社会の持続性を考えた行動といえる。中には使命感を持って、外出した人もいるだろう。 「ナッジなどで表現を工夫した要請だけで立ち向かうには、新型コロナの感染拡大という課題は複雑で難解すぎる、というのが私の正直な感想です。ですから、ナッジで時間稼ぎをしながら要請以外の対策がないかを模索する、というのは自然な動きだと思います」