「攻めた設計」の結果か JAXA「SLIM」総括会見で明かされたスラスター脱落に至った推定シナリオ
「SLIM」が成し遂げたこと、そして今後
目標地点から60mほどずれたとはいえ、SLIMはそれまでの数km~十数kmの着陸地点精度を100mオーダーに引き上げることに成功。当初から目指していた「従来の『降りられるところに降りる探査』から、『降りたいところへ降りる探査』へのパラダイムシフト」を実現した。 坂井マネージャは「この技術は今後、サステイナブルな(持続可能な)月惑星探査を行うために必須の技術。技術的な成果にとどまらないインパクトを有する成果」と胸を張る。 また、SLIMは着陸寸前に2つの小型ロボット(探査プローブ)を放出し、これらが連携して月面に逆立ちするSLIMを写した。とくに撮影した「SORA-Q」はタカラトミーが中心になって開発したということもあり「宇宙業界への参入障壁が低くなっていることを民生業界にアピールできた」という。 “越夜”を想定していなかったSLIMが、結果として3回の夜を越えて動作を確認できた点も大きい。「各種の機体データを取得できた。例えば越夜の後は、探査機内部の各部の温度が高くなっていた。越夜が探査機に与える影響など、なんらかの知見が得られる可能性が高い」としている。 何度も通信できなくなりながらも復活を繰り返したSLIMは、日本中の注目を集めた。SLIMプロジェクトの公式Xアカウント(@SLIM_JAXA)の投稿は、閲覧数が数百万に達するものが複数あり、着陸運用のライブ配信は同時接続数30万以上を記録。YouTubeのアーカイブは200万回以上再生された。「ネットを通じて社会への訴求ができたと思う」。 そしてもう一つ。SLIMは、NASAとの国際協力の一環として、リフレクター(反射板、LRA)を搭載していた。月周回軌道からレーザーを照射して反射光を調べることで、精密な測距が行える。5月には実際にNASAの月周回機「LRO」(Lunar Reconnaissance Orbiter)がレーザー測距に成功している。「NASAは継続的に測距を試みるとのこと。SLIMは、今後も月面上で測距の標的・基準点としての役割を果たし続ける」(坂井マネージャ) SLIMの運用は8月26日に終わった。JAXA内での手続きが完了するとSLIMプロジェクトも解散するが、SLIMにはまだ役割が残っているようだ。
ITmedia NEWS