新型コロナ検査で注目の「抗原」「抗体」とは? 免疫の仕組みから知る
そして抗体検査は、その人が「過去に感染したことがあるかどうか」を調べるためのものです。血液をサンプルとして用い、感染後期に増えて治癒後も作られ続ける「IgG(アイジージー)」という種類の抗体の有無もしくは量・強さ(抗体価)を、検査用に作られた抗原を使ってチェックします(図5)。もし抗体が血液中に一定量以上ある場合、検査用の抗原と抗原抗体反応を起こし、「感染したことがある」と判定されますが、「いつ感染したのか」までは分かりません。(※検査キットの中には、感染の初期にだけ作られる「IgM(アイジーエム)」という抗体を測定し、直近の感染を調べるもの、IgGとIgMの量の比から、感染時期も推定しようとしているものもあります)。 新型コロナウイルスについても、多くの抗体検査キットが開発され、簡単に短時間で過去の感染について検査ができるようになりました。一方で、現在、さまざまな機関で検査キットの精度評価が進められており、例えば米国食品医薬品局(FDA)の報告ではキット間で精度に大きな差があることが指摘されています。また基準以上の精度が認められ、FDAから緊急使用承認を得ている検査キットでも、本当は陽性なのに陰性と判定される「偽陰性」に加え、逆に陰性のはずが陽性と判定される「偽陽性」も一定数出ると考えられており、「陽性」でも「陰性」でも結果が疑わしい、という問題もあります。 そのためWHO、FDA、日本の厚生労働省のいずれも、抗体検査の結果のみに基づいて、個人の過去の感染の有無について診断を下すことを推奨していません。一方で、地域単位でざっくり感染状況を捉える、という目的であれば、そこそこの精度で許容されるかもしれません。目的によりけり、といえます。 また一般に抗体を持つ場合、特に高い抗体価を持つ場合には、対象の感染症にかかりにくいと考えられています。そのため、感染力が非常に強い麻疹(はしか)などでは、海外留学などをする際に抗体検査の結果を求められることがあります。新型コロナウイルスの場合、「抗体を持っている人」は今後感染しにくいだろうと期待されていますが、本当に感染しにくくなっているかどうかは確認していく必要があります。感染防御に十分な抗体価はどれくらいか、十分な抗体価が長期間維持されるのか、抗体以外の免疫の仕組みが感染防御にどれくらい貢献しているのか(図2)など、現状まだ分からないことだらけだからです。 抗体価については、感染後数か月で減少する事例や再感染についての報告も上がってきていて、今まさに抗体についての情報が更新されている最中といえます。このような状況を考えると、新型コロナウイルス感染症へのかかりにくさを考える上で、抗体検査の結果の解釈は非常に難しく、注意が必要といえます。