新型コロナ検査で注目の「抗原」「抗体」とは? 免疫の仕組みから知る
(2)「健康証明がないなら破壊」~先発隊が感染細胞を攻撃
ウイルスが細胞という“個室”に入り込んでしまうと、細胞の外側しか監視できない免疫細胞はウイルスを見つけることができません。そこでナチュラルキラー細胞(NK細胞)の出番です。NK細胞はリンパ球の一種で、ほかの細胞の表面にある“健康証明”マークを確認しています。ウイルスに感染した細胞はこの“健康証明”が出せなくなるので、NK細胞はそれを目印に感染細胞ごとウイルスをやっつけていきます。見た感じ不健康そうな細胞を見つけては倒す先発隊です。
(3)「このカタチは異物だ」~樹状細胞が異物の形を通報
こうした免疫細胞の間では侵入した異物情報の共有も行われます。枝のような突起を持つ樹状細胞は、細胞の外側にいるウイルスなどの異物(=抗原)を飲み込んでやっつけます。それと同時に異物の形を「新米T細胞」(ナイーブT細胞)に知らせ、「このカタチを見たら異物と思え」と注意を促します。新米T細胞は異物の形を覚えた後、さらに司令塔の役割を持つヘルパーT細胞(Th細胞)に変身します。
(4)「動き出す指示待ち仕事人」~後発隊が感染細胞を狙い撃ち
(2)(3)までの段階でウイルスを撃退できないと、“必殺仕事人”細胞傷害性T細胞(Tc細胞)が感染細胞を始末していきます。ウイルスに乗っ取られた感染細胞は「もうだめだ、こいつにやられた……」と異物の一部を細胞の表面に提示します。Tc細胞は、このダイイングメッセージを目印にして、ウイルスの生産工場になってしまった細胞を狙い撃ちします。このTc細胞はどんどん感染細胞を排除してくれるのですが、司令塔のヘルパーT細胞からの指示がないと動かない指示待ちの仕事人です。そのため、仕事人が動き出すまでは(2)(3)の仕組みで持ちこたえないといけません。
(5)「狙った異物にくっつく『飛び道具』登場」~指示待ちB細胞が抗体を受注生産
さらにもう一つ、異物を狙い撃ちする仕組みに欠かせないのが「抗体」です。体の中を巡り、狙った異物にくっつく“飛び道具”です。抗体の基本の形は「Yの字」で、その二股の先端はいろいろな形をしています(図4)。
鍵と鍵穴のように、先端の形が異物である抗原の形とピッタリ合うとくっつきます。これを「抗原抗体反応」といいます。抗体にはいくつか働きがありますが、対ウイルスで重要なのが、抗体がくっつくことでウイルスの感染能力を無効にする「中和」という働きです。感染細胞の外に出てきたウイルスが別の細胞に侵入しようとしても、抗体がウイルスのまわりにくっついてさらなる侵入を防ぎます。この抗体は、B細胞という免疫細胞がヘルパーT細胞からの指示を受けて作ります。B細胞もまた指示待ち細胞なので、抗体の登場には時間がかかります。 (2)から(5)までの一連の反応によって、私たちの体は侵入してきたウイルスを撃退し、自身の免疫システムによって病気を治しています。