ホモ・サピエンス起源の謎―母なる大地アフリカをいつ、なぜ出て行ったのか?
1月、学術雑誌「Science」にアフリカ以外の地では、最も古いおよそ19万年前とみられるホモ・サピエンスの化石がイスラエルで見つかったと発表されました。この発見は、わたしたちホモ・サピエンスの種が約20万年前出現したという従来の説とほぼ近い時期にアフリカ大陸の外へ進出していたことを示唆します。 人類進化史変わる?アフリカ以外最古約19万年前ホモ・サピエンス化石新発見 一体、ホモ・サピエンスはなぜアフリカの外へ出て行ったのか。そしてその時期はいつなのか。古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が執筆します。 ----------
ホモ・サピエンスの起源
この記事は前回紹介した「人類進化史変わる?アフリカ以外最古約19万年前ホモ・サピエンス化石新発見」という記事の続きだ。まだ目を通したことのない方はこちらを参照()。 この記事においてイスラエルから新たに発見された、非常に古いホモ・サピエンス種の化石研究(Hershkovitz等2018)の意義などを紹介した。「約19.5万年前」という数字は、アフリカ大陸以外で最古の記録となる可能性が今のところある。 ―Hershkovitz, I., G. W. Weber, et al. (2018). "The earliest modern humans outside Africa." Science 359(6374): 456. さて、更新世におけるホモ属(Homo)の化石記録は、ネアンデルタール人等さまざまな種や亜種が、我々ホモ・サピエンスが登場する「はるか前」にアフリカを飛び出していた事実を示している。それではホモ・サピエンスは、はたして「どこではじめて出現したのだろうか?」 その「オリジン(起源)の大地」とは、具体的にどこだったのだろうか? 古いホモ・サピエンスの化石記録をたどってみると、現在知られている限り最古の化石は、アフリカ北西部のモロッコからのものだ。この化石標本の地質年代は「約31.5万年から34.9万年前」の間だったと推定されている(Richter等2017)。上記したイスラエルの標本よりさらに古いものだ(前回の記事参照)。 さまざまな遺伝子データにもとづく分析も、ホモ・サピエンスの直接の先祖が、アフリカを源に発しているというアイデア(=仮説)を支持している。 おそらく今のところ、最古のホモ・サピエンスは、「アフリカ大陸」において初めて出現したといって差し支えないようだ。最近の人類進化史の教科書をのぞいてみると、この「アフリカ単独起源説」が主要な仮説として、取り上げられている。 しかし、ホモ・サピエンスと近縁の別の種や亜種の化石記録は、この「アフリカ単独起源説」がなかなか一筋縄ではいかない可能性を示している。最古のホモ・サピエンスが登場した時、たくさんのホモ属の集団が、ユーラシア大陸の各地にすでに進出していたからだ。 例えば、北京原人やジャワ原人はどちらもホモ・エレクトスという別の種に属すが、その出現年代はなんと約70万年以上前だった。ということは、いわゆる「原人」と呼ばれる種のいくつかは、アジア南東部を占めるかなり広範囲まで進出していたことを示している。 こうした近縁種の一集団が我々ホモ・サピエンスの直接の先祖だった可能性はなかったのだろうか? ホモ・サピエンスが、アフリカ以外の大地で登場したことはなかっただろうか? こうした至極まっとうな疑問が浮かんでもおかしくない。アジアや南ヨーロッパ、中東などで我々の直接の祖先に当たる最古の化石が発見されることが、もしかしたら将来あるかもしれない。(ないかもしれない。) とりあえず、この視点からみて、前回紹介したHershkovitz等(2018)によるイスラエルにおける新発見は非常に重要といえるだろう。