飼い主が不安になり「夜間の救急外来」受診→不要な検査で治療費がかさむリスク【ワンニャンのSOS】
【ワンニャンのSOS】#90 愛犬や愛猫がいつもと違うそぶりをしていたら、飼い主さんは心配してその症状をネットで検索するかもしれません。そこにある情報は概してよくない話で、それが飼い主さんの不安を募らせてしまいます。先日も、そんな飼い主さんがシニアのワンちゃんを連れて来られました。 犬も猫も「耳血腫」を発症するが、猫は手術になりやすい【ワンニャンのSOS】 そのワンちゃんの症状は、後ろ足の肉球を気にしてなめたり、かばったりするそうで、飼い主さんがそこを見ると、赤黒く腫れてシコリのようなものがあったそうです。それでネットで「黒いシコリ」と検索すると、皮膚がんの一種メラノーマがヒットしたため、慌てて救急外来を受診したものの、X線検査をしても異常ナシ。 その診断が腑に落ちず、こちらに回って来られたのです。 患部を診察すると、シニア犬にはよく見られるものでした。角質が硬くガサガサする角化亢進症です。ヒトもかかとやひじがガサガサすると思います。あれです。 ワンちゃんの場合、肉球の端にできやすいのですが、内側にできて歩行時に加重がかかると、違和感を覚えると思います。ヒトに例えるなら、ウオノメのような感覚でしょうか。それでワンちゃんはそこをかばったり、なめ壊したりすることがあるのです。 ■「黒いシコリ→メラノーマ」の連想 ワンちゃんの肉球の角質は硬い皮膚で、色素沈着することもあり、黒くなるのがほとんどで、ネット検索の情報をうのみにすると、「黒いシコリ→メラノーマ」という連想が働きやすいのでしょう。 治療は簡単で、硬い角質を柔らかい部分まで削り取ること。ふだんの対策は、ヒト用の尿素配合ハンドクリームを塗ると、角化亢進の予防になります。動物病院でも同様の商品が販売されていますが、かなり高額。わざわざそれを買わなくても、尿素配合ハンドクリームで十分です。 それでもガサガサしてきたら、かかりつけの獣医師にその部分を削り取ってもらえばよいでしょう。飼い主さんでもヤスリやハサミでできないことはありませんが、削り過ぎると肉球自体を傷つけてしまいます。 今回の症状は、シニア犬ならありふれたもので、ある程度経験を積んだ獣医師なら、わざわざX線検査をすることはありません。不審に思って確認すると、X線検査に導く事情も理解に苦しむものでした。 最初に受診した救急病院は企業体病院のようですから、裏を読むと、「診断するときはいろいろ検査をした上で」といった指示が経営側から獣医師にあったのかもしれません。仮にメラノーマが疑われたとしても、救急での治療にはなりませんから、X線検査を加えるのは解せません。結局、異常ナシで検査や診察の費用で1万円ですから。 出血が止まらない、痛みに苦しがっているといった明らかに急を要す症状でなければ、夜間の救急外来受診は控えて、翌日、かかりつけ医を受診するのが無難でしょう。 (カーター動物病院・片岡重明院長)