AIが歌う「シングルベッド」に人は感動できるか つんく♂、AI研究者の酒巻氏と語る
AI技術の進歩が加速する今、クリエイターはどのように共存していくべきか。プロデューサーでありクリエイターであるつんく♂とAI研究者でありAI音楽アプリの研究開発をする酒巻隆治氏が最新テクノロジーと音楽・エンタメについて対談する。最新技術の恩恵にあずかるクリエイターや受け手側が忘れてはいけないものとは、何なのか。
松田聖子以前と以降で変わったアイドルの立ち位置
AIの進歩はめざましい。いまやアイドルの世界でもバーチャルグループが存在する時代となって、近い未来には人間のアイドルが不要な時代が訪れても不思議ではない勢いだ。これまで数多くのアーティストを手がけてきたつんく♂はこの現状に危機感はあるのか。 つんく♂:日本のアイドルって曖昧というか、松田聖子ちゃん(あえて『ちゃん』とさせていただきます)以前と以降でアイドルの言葉の意味や立ち位置が違うと思うんだけど、聖子ちゃん以前の場合は歌も容姿も良くなければアイドルになれなかった。それが、聖子ちゃん以降はアイドル総数も増えたので、歌以外のキャラクターも求められて行った。その後はクラスにいそうな子が団体でアイドルする時代がやってきて、そうなると聖子ちゃん以前のアイドルでタブーとされてたような開き直った姿や、天然っぷりで自分の立ち位置を確保してくようなタイプも増えてきた。芸人とは違うミラクルを起こすタイプも出てきたよね。過去には小倉優子ちゃんや最近では「あの」ちゃんとか、すごいのが常に出てくる時代です。ちなみに辻希美がブログでバズったのも普通の普通を見せてくれるという安心感。プラスたまに誰もが指摘したくなるミステイクをアップしてる姿に世間様は安心してしまうという不思議な現象が起こってるってこと。『この子、常識ないよね』ってマウント取ってもらえたら辻の勝ちって感じで、もし辻が計算でこれらやってるならほんと超天才!って思っちゃう。その辺のへんてこ感はまだおそらくAIではカバー出来ない。K-POPサウンドのような完璧を求めるほうが、もしかしたらAI的には作りやすいのかも。地下アイドル的なふんわりしてて基準のないものは作りきれないから、AIが進んでも消えないんじゃないのかな。 酒巻:たくさんのパターンをAIに渡すと、AIはそこの中に類似性のある何らかのパターンを見つけ出せることが機能の1つです。あるアイドルをとらえたときに、人によっていいと思う部分「ここが好きだよね」がある程度そろっているのなら、好きなここが明確にできたら、何らかの類似パターンを見つけることはできるかもしれません。しかし一方で、アイドルをとらえたときに、人によって見ているところや感じているところが変わり「好き」がばらけてしまうような領域だとするならば、AIは無力です。AIは、パターンがない曖昧さを見つけ出すことが難しいんですよね。アイドルはどうなんでしょうかね? みな、ある程度同じところを見たり感じたりしているものなんでしょうか?