憧れの金刀比羅宮へ。御本宮まで785段の長い石段にチャレンジ
〽こんぴら船々 追風(おいて) に帆かけてシュラシュシュシュー 江戸末期以降、民衆の間で全国的に流行した民謡の一節だ。金刀比羅宮参拝の道中唄が起源とも言われ、「讃岐(さぬき)のこんぴらさん」の名を全国津々浦々まで知らしめた。一生に一度は海を渡って参拝したいと、憧れを込めて歌われてきたのだろう。庶民を魅了し続けるそのお社柄(やしろがら)に心をひかれ、私もこんぴらさんを目指すことにした。 岡山駅から特急南風(なんぷう)に乗ると約1時間で琴平駅に着く。最寄りは高松琴平電鉄の琴電琴平駅だが、今回はJR琴平駅から歩いてみる。金刀比羅宮が鎮座するのは象頭山(ぞうずさん)の中腹。駅を出て金倉(かなくら)川沿いに歩き、山側に折れると表参道の入り口に着いた。785段続く、長い石段の始まりだ。 意気揚々と踏み出したが、100段目あたりで息が切れる。救いは参道の両脇に軒を連ねる商店で、休憩がてらに何度も立ち止まって店先を覗く。途中には旧跡や文化財も多いので、見学しながらゆっくり上ろう。 【写真】いわのや「ひやたまとうがらし」380円(左)と「とり天ぶっかけ」550円、おにぎりは100円
一之坂を上ると、365段目に金刀比羅宮の総門・大門(おおもん)がそびえ立っていた。2層入母屋造(いりもやづくり)の堂々たる姿で、寄進したのは初代高松藩主の松平頼重だ。大門をくぐった先は神域と言われ、確かに気配が一変して厳かになる。 さらに上ってラストスパート。急階段の御前四段坂(おまえよんだんざか)を気力で上り切ると、神々しい御本宮が現れた。達成感を胸に、まずは展望台から讃岐平野を一望して息を整える。御本宮に祀まつられているのは海上守護の神として崇敬される大物主神(おおものぬしのかみ)。ここには海の男たちの信仰を物語る、珍しい風習があるという。 「自分で参拝できない人が初穂料や供物を入れた樽を海に流し、その樽を拾った人がここに運んで代わりに参拝します。流した人も届けた人も、双方にご利益があると言われます」と金刀比羅宮の権禰宜(ごんねぎ)・岸本庄平さん。最近も海上自衛隊からの“流し樽”が届けられたという。御本宮の拝殿に、船名の旗を掲げた樽が供えられているのが見えた。人々の心が育んできた、金比羅信仰の一端に触れた思いだ。厳魂(いずたま)神社(奥社)まではさらに583段を上る。