【ゆるく繋がる地域の《居場所》】近所のひとり暮らしの高齢者に、手作り弁当を宅配。能登半島地震後も、励まし合う憩いの場に<石川県輪島市「かあちゃん弁当」>
不安や心配ごとを共有できる仲間が近くにいたら、どれだけ心強いか――。ご近所同士で助け合える場を自ら作り、そこに集う人たちはどんな関係を築いているのだろう 【写真】ご近所さんと互いに安心して生活できる関係を * * * * * * * ◆励まし合う憩いの場 <石川県輪島市「かあちゃん弁当」> 私の家の隣に、家族と疎遠になっている独り身の高齢男性が住んでいた。その男性が転んで腕を骨折したのを機に、食料や日用品の買い出しを私が引き受けることに。ある日、ベッドの上で苦しむ男性を発見し、救急車を呼んだのも、頼まれていた弁当を届けた私だった。 高齢者の見守りがいかに大切か、また高齢者自身が孤立しないよう誰かと繋がっておくことがどれほど大事か、身に染みた体験だ。 この経験から、独居の高齢者がゆるく繋がれる場所はあるのかと思い立ち、調べてみることにした。 まず見つけたのが、石川県輪島市の「かあちゃん弁当」だ。2019年、ひとり暮らしの高齢者を心配した地元の60~70代の女性4人が始めた事業だという。地域にはスーパーも少なく、移動手段を持たない高齢者は買い物も難しい。 そうした状況をなんとかしようと、4人はお金を出し合い、地元農家の協力を得て食材を確保。週2~3回、栄養バランスのいい宅配弁当を20~30食手作りし、700円で販売してきた。 配達時の玄関先でのたわいない会話を楽しみにしてくれる利用者も多く、高齢者の見守りを兼ねた大切な機会にもなっていたという。
「運営者のひとりが民生委員だったこともあり、独居の高齢者の状況は把握していました。ですから、すぐに『よろしければ、利用してみませんか?』とお声がけすることができたのです。 調理場は私の実家である元旅館の厨房を使えばいい。私は栄養士の資格も持っているので、メニュー作成にも役立ちましたね。すごく順調に進んでいたんですよ」(坂下信子さん・84歳) ところが今年の元日、能登半島地震に見舞われる。拠点の元旅館は全壊。坂下さんたちは、業務再開は困難だろうと諦めたが、公民館の館長が市役所に掛け合い、利用者不足で閉鎖した保育園の厨房と保健室の使用許可を取り付けてくれたという。 6月から週2日、1日約20食限定で、保健室を改造した食堂で料理を振る舞い、弁当の宅配も再開した。 「食堂に来られるお客様は仮設住宅の居住者が中心で、被災者同士、励まし合う憩いの場となっています。『地元の方たちの孤立を防ぐためにも、この場所を大事に保たなくちゃね』と、メンバー同士で話しているんですよ。若者の少ない地域だから、高齢者同士で助け合っていかないと」と、坂下さんは意気込みを語った。
武香織
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