『家族だから愛したんじゃなくて~~』『国道沿いで、だいじょうぶ100回』の作家・岸田奈美さんに訊く 家族、自分、困難乗り越え術
岸田家の子育ての中にある「愛情たっぷり二枚舌」
車椅子生活の母、ダウン症の弟、ベンチャー起業家で急逝した父といった家族の出来事や、日々の生活を綴ったエッセイが人気の作家・岸田奈美さん。子育てのヒントにもつながる、岸田さんの困難を乗り越える力や家族のことなどについてお話を聞きました。 【画像9枚】作家・岸田奈美さんの家族写真など ■「奈美ちゃんが一番大事」「良太が一番」 –岸田家の子育てについてお聞かせください。 岸田さん:私は両親の二枚舌外交で育ちました(笑)。弟はダウン症で幼少期の成長のペースが遅く、両親はすぐに「良太、大丈夫?」と声を掛けていたので、弟には常にやさしくて、私には厳しいように感じていました。 両親としては、障がいのある子のお姉ちゃんだから強く育てようと考えていたようですが、あるとき私が「私よりも弟のほうが大事なんでしょ?」と泣いたらしくて。そのときに母は大きなショックを受けたそうなんですね。 「この子は強く育てなければいけないと思っていたけれど、いま愛されないことでこんなに泣いているんだ」と気がついたそうで、それから二枚舌での子育てがはじまったのです。 私には「奈美ちゃんが一番大事。奈美ちゃんが一番賢い天才。良太のことが恥ずかしいとか学校で嫌な思いをすることがあれば良太のことは気にせんでいい。弟に障がいがあるとか、体が弱いとか気にせんでいい。我慢しないで好きなようにしていい。ママとパパは奈美ちゃんの一番の味方やから、奈美ちゃんが幸せなことが大事やねん」と母に言われて育ちました。 だから私は弟のことをずっと2番手だと思い、姉として余裕を持って弟と接していたんです。そして、これは私が大人になってから知ったのですが、一方で弟は「良太が一番」と言われていたことが発覚しました(笑)。 でも、それがなかったら私は人生でつまずいたり苦しくなった時に、弟のせいにしていたかもしれない。 弟も、2番手のお姉ちゃんにやさしくしようと思っていたのか、小さい頃によく物をくれたりしましたね(笑)。両親がどちらも一番と言って育ててくれたので、現在の弟との仲の良い関係ができたのだと思います。