国内外で年間250店、トリドールHD粟田社長はなぜ新規出店の意思決定を人に任せるのか?
トリドールをホールディングス化して、業態ごとに事業会社として分社化したのも、こうした考えからです。一人の人間が考える付加価値は一方向になりがちです。複数の人間がそれぞれの付加価値を生み出せば、成長の速度が速まるだけでなく、リスクヘッジにもなります。 例えば、丸亀製麺とコナズ珈琲は客層も戦略もまるで違う業態です。客単価は丸亀製麺が約700円、コナズ珈琲はその約3倍です。来店頻度でいえば月に何回も来てくれるお客様が多い丸亀製麺と、2、3ヶ月に1回のコナズ珈琲では、集客の考え方も変わります。 世界観も「製麺所の風情を感じながらセルフうどんを楽しむ」と「一番近いハワイで日常を忘れてくつろぐ」では大きくかけ離れていて、店内に置く椅子の単価から何から大きく違うのです。 コナズ珈琲の椅子を丸亀製麺に置こうとしたら、採算がとれません。しかし、コナズ珈琲はお客様の店内滞在時間が長く、ハワイの民家のような店内で時間を忘れてコナコーヒーとハワイアンフードを楽しんでもらうというコンセプトであるため、インテリアにはお金をかけても良いのです。 こうした複数の業態を私一人で見るとなると、必ずどちらかを優先してしまうでしょう。それぞれのチームが独立して、自分の業態を成長させるために戦略を考えて、それをたゆまず実行しているからこそ、どちらも大きく伸びているのです。 任せているとはいえ、戦略の方向性やある程度の額以上の案件は私が承認しているので、何が起きているかは把握しています。月次報告や経営会議で報告を受け、大筋が間違っていないことが確認できれば、あとは任せるという方針です。 正直に言うと、「すべてをコントロールしたい」「思いのままに動かしたい」という欲求はあります。途中までは、調理に接客、店舗開発、業態開発、人材採用・開発、すべてを自分でやっていたわけですから。創業社長は誰しもそういう気持ちを持っているのではないでしょうか。マイクロマネジメントをしそうになるのを、ぐっとこらえることがあります。 すべて自分でやるというのは、お山の大将になるということです。それはそれで、目の行き届く範囲は全てコントロール下にあり、安心で気分がいいことでしょう。しかし、自分が大将になれる山の高さはたかが知れています。それは、小成に安んずるということ。世界最高峰を目指すのであれば、視野を広げて人の力を借りたほうがいい。 お山の大将になりたいという本能的な欲求がありつつ、最終的には「飽くなき成長」に重きをおいて決断しています。