コロナ禍に最大632億円もの大赤字を叩き出した「H.I.S.」、業績回復の牽引役はあの「変なホテル」だった
加えて、これら従業員は9割を社員が占める。その理由を遠藤さんは、「少人数で回しているからこそ、能力的にも、業務的にも1人で多種多様な仕事ができる人間じゃないと難しい。頭脳派集団である必要があります」と説明する。 「立ちっぱなしで1日100人を対応する」こともザラな受付業務がなく、決まった時間に決まった業務をこなすことが主となるため、他ホテルからの転職者からは「働きやすい」という声が上がる。離職率は低水準で推移している。
こうした改革が実を結び、2023年には売り上げ・利益を確保できるまでに回復。そこから業績が急上昇し、今、グループ全体を支え始めているのだ。 だがもちろん、コロナ禍がつらくなかったわけではない。 「これまでで一番しんどかったのは、間違いなくコロナの時代です。稼働がなく、売り上げが成り立たずで本当に苦しかった。ただそんな中でも、新規ホテルのオープンが5軒あったため、『まだこの事業を続けるのだ』というスタッフの希望につながりました」
災いの年を丸2年挟んだことを考えれば、事業の推移は順調といえるだろう。「変なホテル」は21棟まで増えており、稼働率は非公表だが、集客は非常に安定しているという。 ■「変わり続ける」というブランド戦略 そもそも、「変なホテル」は、どのように生まれたのだろう。 きっかけは2010年、経営が悪化したテーマパーク「ハウステンボス」が、H.I.S.の傘下に入ったことにはじまる。 H.I.S.創業者で現最高顧問の澤田秀雄氏が立て直しを図る中で、「ホテルが最も非効率だ」と、フルサービスホテルから、「世界一生産性が高い、ギネスに乗るスマートホテル」への転換を計画。フロントに人を立たせずに人件費を下げるなど、省人化、効率化のアイデアを出していった。
そのなかで誕生したのが、「変わり続けることを約束する」というブランドコンセプトだ。「ただ省人化や合理化を進めるのではなく、名前も滞在も10年後に思い出せるような、お客様がワクワクして飽きない体験が提供できるホテルを目指しました」と遠藤さん。 ブランドコンセプトを受けて、これまで建てられた21ホテルは、すべてが異なるデザイン・設備を持つ。受付ロボットも全部異なり、同じように見えても細部が違うそうだ。