「たかが中受」と思えるか、おおたとしまささんが考える「中受ロス」の処方せん(上)
中学入試の本番が迫ってきました。中学受験で第1志望校に合格するのは3割で、結果に納得できず「中学受験ロス」に陥る親も多いと言われます。どんな結果になっても笑顔で受験を終えるために親が考えておくべきことを、教育ジャーナリストのおおたとしまささんに聞きました。
【話しを聞いた人】教育ジャーナリスト おおたとしまささん
1973年東京都生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退、上智大学英語学科卒業。リクルートから独立後、数々の育児・教育媒体の企画・編集に携わる。執筆活動の傍ら、講演・メディア出演など幅広く活躍する。心理カウンセラー、小学校教員としての経験があり、中高の教員免許を持つ。著書は80冊以上。
「中学受験ロス」に陥る親たち
――新刊「母たちの中学受験」(小学館)は、一昨年の「勇者たちの中学受験」(大和書房)、昨年の「中受離婚」(集英社)に続き、中学受験を通じて起こりうる様々な事態をシミュレーションするための3部作と読みました。今回、母親に注目したのはなぜですか。 中学受験を終えた後に残る「ほろ苦さ」に焦点を当てたかったんです。中学受験で第1志望校に合格するのは3割と言われています。第1志望に合格できなかったという結末に納得できず、いわゆる「中学受験ロス」に陥る親がたくさんいる。そういった親の傷をどう回復していくのかを例示したかった。これから中学受験をする人たちにシミュレーションとして読んでもらいたいのはもちろんですが、2月の受験が終わった時、ほろ苦さを感じている人に、実は一番読んでほしいです。 それで、お子さんが第1志望校に行っていないという条件で取材対象を探したところ、たまたま全員女性だったというだけ。母親であることにあまり意味はなくて、父親でもよかった。お父さん主導の受験もあるし、性別はそんなに関係ないかなと思います。 ――たまたま集まった方たちなのですね。それでも6人のエピソードはどれもインパクトがあります。中でも第6章のお母さんはちょっと異質で、子どもの受験は「他人事」と最初から一歩引いて見ている感じです。 一生懸命なんだけど、冷静さも併せもつお母さんでした。「他人事」というと一般的には、突き放した冷たい感じに捉えられがちですが、子どもを一人の人格として認め、自分の人生を切り開いていけるはずだと信頼しているということ。本人が選ぶことに絶対的な価値があると信じている。それが子どもにとっては「励まし」になる。 親の期待まで背負わなくていい。本人が満足すればいい。余計な重しを肩に載せずにすめば、子どもは少し気楽でいられる。「救い」にもなると思うんです。 ――親と子が別人格であるということ。頭では分かっていても、納得するのが難しいです。 そう思えない自分はダメなんだと思ってほしくないですね。6章のお母さんがそういうふうに思えたのは、お母さん自身の中学受験の時にひどい思いをしたという背景があって、人並み以上に苦しんでいるんですよね。12歳での苦しみが子どもの受験で生かせたということ。そういう経験をしていなかった人が子どもの中学受験に臨んだ時に、他人事と頭では分かっていても腑に落ちないのは当然のことだと思います。 子どもが思い通りの成績を取ってこなかったとか、いろんな経験を通じて、現実をどう受け入れるのか葛藤する。少しずつそれが他人事だと理解できるようになり、精神的成長を遂げていくことができる。最初からそんなことができる人はいません。なかなかそう思えない自分に出会うことは、自分が成長している証拠。子どもが新しい問題を解かなければいけないけどどうやって解いたらいいかわからない、なかなか解けないというのと同じように、親も課題と向き合い、成長していく機会なのだと思ってください。 高校受験とか大学受験だと、親がそこまで関わらない分、親自身の成長はないかなと思います。子どもの方から「他人だから」って言われますからね。親が自分のほうから手を離さなければいけないつらさが中学受験にはあります。 逆に言うと中学受験は親がコントロールしようと思ったらできてしまうということ。親が気づかないうちに子どもをコントロールしまくって、子どもの自己像を歪めるということが起こるのが12歳の受験の怖さですよね。