生きていく杖になる本を。パレスチナへの連帯を起点に生まれたひとり出版レーベル「猋社」に込める願い
双極性障害と向き合いながら。表現活動はパワーにもなり、絆創膏にもなる
パレスチナの支援活動も、猋社のことも、双極性障害と向き合いながらの活動だ。特にパレスチナのことに取り組んでいる当時は、躁鬱の「躁」の状態にあって、その後にしんどい思いもしたと語る。自身の身体や体調とも向き合いながら「ちょうどいい距離感」で付き合っていく。 佐古:この前、通院している病院に行ったとき、過去のカルテを振り返ったんですよね。すると、パレスチナのことでいろいろ活動している当時に「何も悩みがない。元気」みたいなことが書いてあって、そんなわけはないんですよね(笑) 私は最初はうつ病と診断されていたんですが、「躁」のターンも当初からあったんだと思うんです。パレスチナのことをやり始めてからはめっきり「躁」の状態で、それが7カ月ぐらい続いていて。怒りもすごかったし、万能感もあった。 だから、私はギリギリのところまで寄付にお金を注ぎ込んでいました。寄付だからいいだろうっていうことで、限界までいってしまっていて。周りからしても誰かのためにやってることなので、止めづらいんですよね。いいことしてるんだったら応援しようってなるから。 だから、私の勝手な心配ではあるんですけど、私と同じように、パレスチナの連帯を頑張ってる人のなかには、きつくなってる人もいるんじゃないかなとは思ったりもします。 ーこれまでの活動のことをおうかがいしていると、ものづくりや表現活動がパワーになっているように感じました。 佐古:今年の前半はすごくパワーになったし、いまは逆に絆創膏になっていますね。表現――かたちに残すことが力にもなるし、支えにもなるし、それはすごく感じます。 表現からパワーをもらって頑張って、消耗したところをまた表現で補ってもらうっていう。美術大学も出て、いろんなもの作りの仕事もしてきましたが、表現の原点みたいなものをあらためて感じる1年間でした。そして私には、やっぱり必要だなと思いました。 ―では、最後に教えてください。猋社では、これからどんな本を刊行する予定でしょうか? 佐古:まず、2月に刊行予定のものが2冊あります。ひとつが、寺田燿児さんの短篇漫画集『DRAMATIC』。もうひとつが、宮川知宙(みやかわ)さんの詩集『ピーナッツと6人、どっちが好きなの』です。 『DRAMATIC』は、劇的で溢れた世のなかを、逆に日常を描くことによって炙り出す短篇を集めた一冊。『ピーナッツと6人、どっちが好きなの』は、一見意味のわからない断片的な言葉の羅列なのに、なぜか懐かしく見覚えがある風景が頭に浮かんでくる「読む夢」のような本です。 寺田さんの漫画も、宮川知宙さんの詩も、読んだら日常の見え方がちょっと変わる気がします。『いっぽうそのころ』ももちろんですが、私がつくりたい本は、それを読んだことで日常の見え方がどう変わるか、そういったところに軸があるように思います。
インタビュー・テキスト by 今川彩香 / 撮影 by 前田立