「子どもの視点に立った調停をしてほしい」長期化する離婚・面会調停、当事者が家庭裁判所に望むこと #こどもをまもる
当事者のあいだでささやかれる「調停委員ガチャ」
では、家庭裁判所の側は「子の利益」をどう見ているのか。 家庭裁判所で扱う家事事件は、調停前置主義といい、審判の前に調停から始めなければならない。調停委員会は、裁判官または調停官と、2人の調停委員、子どもがいる場合は家庭裁判所調査官が加わる。 西日本の某県で調停委員を務めた加山仁美さん(仮名、57)。家庭の主婦で自営の手伝いをしていたが、面倒見のよい人柄を買われて、調停委員をしていた知人に声をかけられた。 加山さんは、子どもがいる家庭の事件では、まず初回に子どもの状況を聞き取り、子どもが両親の紛争で不安な気持ちでいることや、親と子どもの気持ちは別であることを理解してもらうよう、申立人・相手方双方に働きかけをしていたという。 「調停委員になると、研修の機会がたくさんあるんです。すべての調停委員に義務づけられているものから、特定のテーマに絞った任意のものまで、さまざまなものがありますが、積極的に参加して、傾聴について心理学的に学んだり、家族関係について理解を深めたりするうちに、『ふつうの家族』なんかない、と思うようになりました。こちらが『ふつう』と考える価値観を押しつけてはいけないと肝に銘じていました」 家族に関する価値観は、時代によって変化する。しかし、価値観をアップデートする努力をしない調停委員も多く、不満をもつ当事者は多い。当事者界隈では「調停委員ガチャ」などという言葉もささやかれている。加山さんは、「学んでほしい人ほど、研修に出てこなかったですねえ」と振り返る。
「面会交流は過去の清算ではなく、子どもの将来の問題」
当事者が家庭裁判所に抱く不満のもう一つは、「調停で取り決めたことが守られない」ということだ。家裁から履行勧告をしてもらうことはできるが、相手が応じない場合、強制することは難しい。 香川県の増田卓美さん(78)は、調停のあり方に限界を感じて、面会交流支援団体を立ち上げた。増田さんは公務員を定年退職後、調停委員に。それから5年後に民法が改正され、面会交流について協議するように定められた。 「あるとき、面会交流について合意し、調停合意書にもきちんと取り決め事項を書いて離婚したご夫婦がおられたのです。よかったよかったと思っていたら、1年後、再調停を申し立ててこられた。要するに、約束した取り決めが守られなかったんですね。『法律に書いてあってもダメなんだな。面会交流についての調停は、調停成立に漕ぎつけるだけでは、子どもの福祉とはいえない。最後の受け皿も必要なんだ』と気づきました。『面会したい』『面会させたくない』という親同士の間に入る第三者機関として面会交流支援センターを立ち上げることになったのです」 2015年12月にNPO法人面会交流支援センター香川を設立。支援を始めてみると、調停の場ではわからなかった子どもの心が見えてきた。 「調停で同居親が『子どもが嫌がっているから別居親に会わせたくない』と言うことは多いのです。でも実際には、別居親に会ったとたん、バーッと走っていったりするのです。反対に、同居親のところに戻るときは、それまでニコニコしていたのがパッと顔色を変えて、楽しかったことなんかなかったかのようにふるまう。子どもが嫌がっているというのは同居親の気持ちに配慮する忠誠心、葛藤だと思うんです。子どもの本当の気持ちは違うんだな、両親に挟まれて一番しんどいのは子どもだなと、強く思うようになりました」 増田さんが提唱するのは、子どもがいる夫婦が離婚するときは調停前に必ず親ガイダンスを受ける仕組みだ。子どもにとって望ましい離婚の形を夫婦ともに学ぶ。一部の家庭裁判所ではすでに任意で実施している。これを全国的に義務化する。夫婦で「子の利益」が共有できれば協議は整いやすくなり、調停となった場合も進行はスムーズになるはずだ。 「制度というのは、行政や司法だけでは賄いきれないのが世の常だと思います。子どもの権利、最善の利益を目的にした面会交流に関しては、財産分与などの紛争解決方法とはちょっと違います。デリケートな問題を含む面会交流は過去の清算ではなく、子どもの将来の問題です。父母の歩み寄りが不十分で第三者機関の支援が必要となる場合の面会交流については、公正・中立性が大原則の家庭裁判所であったとしても、何らかの形で民間と連携または委託があってもよいと思うのです」