「とらやさんがあるから引っ越した」、料理研究家・髙山かづえさんが世田谷の牛肉店を愛する理由。
●東京都世田谷区砧8・13・8 営業時間:12時~18時 日・月・木曜休
とらやさんから学んだこと5つ。
1.鮮度だけではない、 きれいに〝掃除〟 された⾁が 美味しい。
とらやで買う肉は余計な脂が少ない。この日、本誌取材のために調理場を訪れた髙山さんがそのことをまず伝えると、佐藤さんは即座に「脂身が多いとお客さんは喜ばないから」と答えた。 余分な脂だけではない、筋や血合いや汚れ、不要な皮の部分など、店に並ぶ前にこちらの肉はきれいに“掃除”がなされる。
「そしてそれがとても丁寧なんですよ」(髙山さん) 佐藤さんの手にかかると丸の鶏はものの5分とかからずに解体される。各部位に切り分けられた肉は薄桃色にツヤツヤ輝いている。 「たとえばこちらのガラで取ったスープは雑味がなくて本当にクリア。塩だけで、驚くほど奥行きのある味わいになります」 確かな手仕事を経た食材が本当の旨味を発揮する。贅沢な発見だ。
2.バラ⾁とロースとリブロース…… 料理で部位を使い分ける。
ある日、トンカツを作るという髙山さんに佐藤さんは、ひと抱えもある大きな豚の塊肉を貯蔵庫から取り出してきて、それならロースよりリブロースのほうが美味しいよ、と塊肉の端のほうを切り始めた。 「名前はもちろん知っていましたがそれがどこの部位で、どうして美味しいのかということを初めて目で理解しました」(髙山さん) リブロースとは豚の肩に近い部分で、赤身の周りを脂身の層が取り囲んでいる。ロースはそれよりも脂身が少なく、一方バラ肉は赤身と脂が対となり層をなしている。 「リブロースはトンカツに向いているし、ロースはソテーや生姜焼きに合う。バラ肉は豚の角煮や炒め物、鍋物にいい」(佐藤さん) 切り出されていく肉の視覚情報と舌の記憶は、以来、髙山さんの頭の中でしっかりと結びついた。
3.トンカツ⾁の筋切りは 〝カブリ〟の部分に包丁を⼊れる。
トンカツの下拵えとして、肉の筋切りをすることはもちろん知っていた。それをすれば揚げた時に肉が反らない。けれども実際にやってみると、うまくいく時といかない時があった……。 「トンカツに使うリブロース肉には“カブリ”と呼ばれる細長い赤身が周囲を取り囲んでいて、それと本体の赤身との境になっている脂身の部分3~4カ所に包丁を入れると筋が切れます」(佐藤さん) 筋とは赤身と脂身の間を走行する固い線維のことで、それはカブリに密集する。そこを断ち切れば、熱を加えても肉は縮まない。 「そうしたことは対面で教えていただくなどしないと、なかなか知る機会がありません」(髙山さん) 本だけではなかなかわからない生の知識を、髙山さんは買い物の現場から吸収している。