三井化学の人事戦略 足を運んで会話する「泥臭い取り組み」がカギとなる
多くの企業が重要課題と位置づける人的資本経営。2023年からは一部企業に人的資本情報の開示が義務付けられ、人的資本レポートとして広く社会へ発信するケースが増えています。こうした中、三井化学では長期経営計画「VISION 2030」に基づいた人事戦略を展開。グループ統合型の人材プラットフォームを整備してグローバルレベルでのタレントマネジメントやデータ活用を進め、経営陣や現場を巻き込んだ人的資本経営を進めています。その成果は次世代の経営人材育成の進捗を示す「後継者候補準備率」など、ユニークな情報開示に現れています。同社ではどのように人材戦略を描き、グローバルレベルでの実践につなげているのでしょうか。現在までの取り組みを聞きました。
求められているのは、多様な事業ポートフォリオを横断する人材戦略
――三井化学は2021年に長期経営計画「VISION 2030」を策定しています。このビジョンではどのような未来を目指しているのでしょうか。 三井化学グループは「地球環境との調和の中で、材料・物質の革新と創出を通して高品質の製品とサービスを顧客に提供し、もって広く社会に貢献する」ことを企業グループ理念として掲げています。 「VISION 2030」はこの理念に基づき、2021年度から10年間の長期経営企画として策定しました。2030年のありたい姿として、変化をリードしサステナブルな未来に貢献するグローバル・ソリューション・パートナーになることを宣言。すべての事業において社会課題解決の視点を大切にし、理念とビジョンの実現に向けて走っているところです。 具体的に注力している事業ポートフォリオは四つ。地球規模で課題解決が求められている「ライフ&ヘルスケア・ソリューション」「モビリティソリューション」「ICTソリューション」に加え、カーボンニュートラルに貢献していくための「ベーシック&グリーン・マテリアルズ」への投資も加速させています。 ――これだけ多岐にわたる事業領域を推進していくと、必要な人材ポートフォリオは複雑になりませんか。 そうですね。三井化学グループではここ10年あまり、ヘルスケアやモビリティの領域でさまざまな事業を買収してきました。それぞれにまったく異なるケイパビリティ(組織としての強み・優位性)を持つ事業です。 こうした局面で価値を創出していくには、単一の事業ポートフォリオの中で活躍するだけではなく、各事業のケイパビリティをかけ合わせていくリーダーシップも求められます。それもグローバル環境でのリーダーシップです。 その力を有する人材を採用し、育て、人材ポートフォリオを形成しながらエンゲージメントが高い状態を維持していかなければなりません。私たち人事もまた、ハイレベルな課題に向き合っているのです。 ――どのような人材戦略を描いて対応しているのですか。 まずは必要な人材の確保・育成・リテンションに努めることが最重要です。次にエンゲージメントを高めていくこと。これも国内だけではなくグローバルレベルで取り組まなければなりません。 一つひとつの事業は小さく、アメーバのように有機的に絡み合っています。それぞれが持つ知見をかけ合わせていくために、多様な事業・組織を横断し、三井化学グループとしての意識を高めていく必要があると考えています。