三井化学の人事戦略 足を運んで会話する「泥臭い取り組み」がカギとなる
足を運んで会話する「泥臭い取り組み」でグローバル人材を引き上げ
――グローバルレベルでタレントを把握するには、各国支社・拠点の現場関係者の協力が欠かせません。どのような体制で現場を巻き込んでいるのでしょうか。 日本本社の場合は各事業本部にHRBPを置いています。海外のグループ会社は事業部が縦ラインでマネジメントしており、各会社にHRが在籍。さらに私たちグローバル人材部と一緒に動く「地域人事」を配置し、地域ごとのリーダーシッププログラムなどグローバルな人事の仕組みを企画・展開しながら、各地のHRと連携しています。 組織がある限り壁はできるもので、当社もまったく壁がないわけではありません。ただ私たちの場合は、HRBPを単体で組織化していないことがユニークな点ではないかと思います。当社の人事組織としては人事部とグローバル人材部があり、HRBPはこのどちらかに所属して事業本部に張り付いているのです。 彼らが孤立しないよう、私や人事部長がシニアHRBPを兼任。役員や本部長クラスと事業戦略やサクセッション・プランなどに戦略的な事柄について対話し、HRBPと連携を強化する役割を担っています。こうした仕組みによって各現場の状況を適切に把握し、スピーディーに人事施策と連携できるようになりました。その意味では私たちは人事のプロフェッショナルでありつつ、事業にも深く入り込んでいる立場でもあります。 ――人事部やグローバル人材部には、事業部門出身者も多いのですか。 そうですね。私自身も事業部門出身で、人事になってからも事業に関するプロジェクトに携わってきました。買収した会社と一緒にグローバル人事ポリシーを作った経験が、現在のグローバル人材部設立につながっています。 他のメンバーも事業部門出身だったり、人事から事業部門へ出た経験を持っていたりして、複数の強みを組み合わせた組織が実現していますね。人事の専門性を育てることは間違いなく必要ですが、その上で事業に興味を持ち、理解することも大切だと考えています。 ――グローバルでのリーダー人材育成はどのように進めていますか。 率直に言って、私たちも苦しんでいるところです。グローバルな経営者候補といっても、結局のところ選ばれるのは日本人が多数という現状があるからです。グローバルにビジネスを展開していて、日本の事業本部のリーダーなどが各地を回って、グループ従業員と充分にコミュニケーションできていればいいのですが、日本人駐在員中心で回している国や地域からは、なかなか候補者が挙がってきません。 そのため私たちグローバル人材部では、補完的に各国の拠点を頻繁に訪問するようにしています。私も毎月のようにさまざまな拠点を訪れます。拠点に所属する人事と会話したり、現地の従業員と1on1を行ったり、タウンミーティングを開いたりして、光る人材を探しているのです。とにかく足を運んで、人と会って会話する。こうした泥臭い取り組みを続けていなかければならないと考えています。 そうした中で、少しずつ成功事例が出てきています。米州総代表兼Mitsui Chemicals America, Inc. President & CEO)のグループ社員は、もともとは2008年に買収した米国企業のイギリス拠点で働いていました。本人とキャリアプランを話しながら経営層へ登用し、米州総代表として、当社グループの執行役員にも就任してもらっています。 最近ではこうしたケースが増えており、ひとたび事例が可視化されれば、各社・各拠点のトップも動きやすくなるようです。拠点トップを務める日本人駐在員から「優秀な若手部下を日本に派遣したい」というリクエストが届くようになってきました。