「もしも私があなただったら」をエンタメで体感させたい――なぜ、新海誠監督は東日本大震災を描いたのか #知り続ける
―― 現在は社会的な分断や政治的な対立が鋭くなっています。世界中に共感が広まっていくことによって、災害や戦争といったものに対する私たちの意識は変わっていくかもしれないと考えますか。 「極端なことを言うと、エンターテインメントは世界平和のようなものに少しだけでも貢献することができると思うんです。エンタメには、他者の気持ちを想像させる、あるいは、自分自身を他者に没入させる力が宿っていますよね。『自分だったらこうする』『自分だったらこんなつらい思いはしたくない』といったような、人を感情移入させる力がアニメーションには普遍的に備わっている。その一点をもって、世界を平和な方向に少しだけ動かすような力が宿りうるメディアだと思います」 「すごく単純に言ってしまえば、他者への想像力が少しでも広がるような映画作りをしたいと思っています。エンターテインメントに今求められる役割を考えると、他にないのではないか、と。『もしも私があなただったら』を作品の中で、きちんとエンタメとして体感させる。それがずっとやりたいことで、『すずめの戸締まり』でもそれが一番重要な仕掛けになっています」 ――― 新海誠(しんかい・まこと) 1973年生まれ、長野県出身。2002年、個人で制作した短編作品『ほしのこえ』で商業デビュー。その後、『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』『星を追う子ども』『言の葉の庭』を発表。2016年に公開した『君の名は。』は興行収入251億円を超えた。『天気の子』を経て、最新作『すずめの戸締まり』が第73回ベルリン国際映画祭でコンペティション部門にノミネートされた。 ――― 藤田直哉(ふじた・なおや) SF・文芸評論家、日本映画大学准教授。1983年、札幌市生まれ。著書に『虚構内存在―筒井康隆と〈新しい《生》の次元〉』『シン・ゴジラ論』『新海誠論』『ゲームが教える世界の論点』など。編著に『3・11の未来』『東日本大震災後文学論』など。