カエル、イモリなどの減少の原因 両生類界の新興感染症の脅威
菌の分布拡大は、人為的な両生類の移送が原因
その後も、世界各地でカエルツボカビの起源に関する調査は継続しており、日本以外にも地域固有のカエルツボカビ系統が存在すること、多様なカエルツボカビ系統の一部が世界パンデミック系統(Global Pandemic Lineage=GPL)として、世界中に拡散して病気をもたらしているというのが現時点での世界中のカエルツボカビ研究者の見解です。 現在、私たちは、これらの海外における調査結果に加えて最新の国内調査結果を統合して、カエルツボカビ菌の分布拡大プロセスを再構築しています。その結果、日本の特に南西諸島に全世界のカエルツボカビ系統が「集合」しており、ここを起源として、GPL系統が北米・ヨーロッパ・オセアニアに分散したと推定されています。 また、古くから経済のつながりの深かったブラジルにはGPL系統とは異なる系統が移送され、「ブラジル系統」として南米で分布を広げ、その後、近年になって、この「ブラジル系統」が北米にも侵入したものとわたしたちは考えています。 カエルツボカビ菌の起源については、まだ、各国から諸説が林立していて、結論はまとまっていませんが、本菌の世界的な分布拡大は人為的な両生類の移送が原因であることは間違いありません。
人間界からジャングルの奥地へ 希少両生類にも拡散の懸念
一方、ツボカビ症の深刻な被害は、主に中南米やオセアニアなどの標高が高い密林地帯に生息する希少両生類集団において生じています。カエルツボカビ菌が、ジャングル奥地に侵入した原因として、これらの国々ではエコツーリズムやフィールドトリップなど現在、生物多様性を観光資源とすることが流行しており、こうしたツアーで訪れたさまざまな国からの観光客が土足で熱帯林の奥地に立ち入ることで菌が下界から持ち込まれたと考えられます。 これまで人間世界から隔絶されていた両生類の生息空間に人が足を踏み入れたことによって、下界からカエルツボカビ菌が持ち込まれ、免疫のない両生類の間でこの菌は瞬く間に広がったのではないでしょうか。 まさに、ジャングルから人間社会にHIVウィルスやエボラ出血熱ウィルスが進出している事態とは逆方向の事態が野生生物の世界に生じていることを、カエルツボカビ菌のパンデミックは示しています。 2014年には、カエルツボカビ菌と同属で新種のイモリツボカビ菌がヨーロッパで発見されました。本菌はイモリやサンショウウオ類など、有尾目両生類(尻尾がある両生類)にのみ感染する病原菌で、ヨーロッパ産のサンショウウオに対して猛威を振るっています。国立環境研究所を含む欧米・アジアの研究グループが調査した結果、本菌の起源も東アジアにあることが示唆されました。日本のアカハライモリは欧米では、ペット生物として人気があり、こうしたアジア産有尾両生類の国際移送が、この新しい両生類感染症のパンデミックに繋がっていると考えられます。 外来種は外国から日本に入ってくるものばかりが気にされがちですが、日本から輸出され世界の生物多様性の脅威となる外来種も存在します。また外来種は目に見えるものばかりではなく、この病原菌のように目に見えないものも無数に含まれることを忘れてはなりません。 (国立研究開発法人国立環境研究所・侵入生物研究チーム 五箇公一)