人から頼まれた仕事だけして死ぬのはイヤだ…プロの写真家(34)が1000万円を雑誌づくりに注ぎ込んだワケ
■なぜネットではなく雑誌なのか とはいえ、メディアにはさまざまな形がある。中でも修羅の道といえる雑誌を選んだのはなぜなのか。 小田さんがポイントとして挙げたのが「風化しないこと」。特にウェブメディアは消費スピードが非常に速い。「もちろん、デジタルも好きですよ」としつつ、カメラマンとして思いを込めて仕事をしても、わずか数日で読まれなくなってしまい、風化していくことに危機感を持っていた。 「5年前のウェブ記事が読まれることって、そうそうないじゃないですか。一方、フィジカルな媒体なら『POPEYE』や『BRUTUS』のバックナンバーを集めている、飾っている人は結構多い。ヒップホップ業界に携わる人たちの生き様を、しっかり残したいという思いから、紙の雑誌を選びました」 制作に当たっては、手間もコストも惜しまずに全てをぶつけている。使用する紙にも、印刷を依頼する企業の選定にも、装丁にも、もちろん内容にも一切の妥協はない。 vol.0と1を合わせ、印刷したのはvol.0が3200部、vol.1は重版がかかり5000部で、かかった費用はこれまで1000万円超。一部、大手企業のスポンサーが付いて制作費をまかなっているとはいえ、ほとんどのお金が手弁当だという。そこまでして取り組むのはなぜなのか。 ■言い訳のできない全力の仕事をしたい 「どう自分は生きたいのかを考えたことが根底にあります。世の中の仕事の多くは、時間や予算、環境などの制約があります。カメラマンとしての仕事もそうです。もちろん依頼されたからには全力を尽くしますが、そうした仕事のアウトプットは、本当のベストというよりも『ある制約条件下の最適解』だと思います。 制約があると、人間は言い訳をしてしまいますよね。言い訳を続けて、そうした制約下の最適解しかできない・求めない人間になるのがイヤだったんです。 じゃあ、制約を可能な限り取り払ったとき、自分に何ができるのか。そこで生まれるアウトプットこそ、言い訳の出来ない渾身の作品だなって。だからこそ、コストも労力も惜しまず、全てを注ぎ込みました」 小田さんはBLUEPRINTを、自身のキャリアにおける「R&D(研究開発)」だとも話す。企業がより良い製品やサービスのため、膨大なコストや労力をかけるのと同様に、キャリアにも研究開発の考えを適用して、チャレンジする。そうしたマインドがないと、企業の成長、そして働く個人における人生の選択肢や可能性は広がらないのだという。 「自分の全てをぶつけて良いものができれば、新しい仕事につながることもありますからね。例えば、サイバーエージェントの藤田晋社長は、麻雀やヒップホップ、競馬に対しての知識は玄人跣ですし、並々ならぬ愛情を持っている。彼は会社のお金でなく私財をそれらの趣味にガンガン注ぎ込む。その結果、ABEMAの番組やイベント、スマホゲームにつながった。本業にも還元していて、本当に凄いなぁと。尊敬しています」