「タバコの煙が充満するバス」「選手の住所が載っていた選手名鑑」…今では考えられない昭和プロ野球の“常識”
「任侠映画」を観て士気を高めていた?
――昭和らしいバス移動の思い出は他にありますか? 湯上谷:車内のテレビではいつも、菅原文太さんや鶴田浩二さんが出ている、いわゆる「任侠映画」が流れていました(笑)。 ――誰のチョイスなんですか? 湯上谷:ベテランや主力選手のお好みをマネージャーが調べて、ビデオを借りてきてたみたいですよ。 ――試合前に任侠映画だったんですね(笑)。 湯上谷:僕ら若手は「あ~、またはじまったよ~」って眺めているだけでした。でも不思議なもので、なんとなく見ているだけでも闘争心が湧いてくるんですよ。プロ野球の試合も戦いですから、士気を高める効果もあったんでしょうね。 ――確かに戦いのある映画を観終わった後は、強くなったような気持ちになりますね。 湯上谷:これは推測なんですが、昭和のプロ野球選手の私服って、そういう映画の影響があるような気がします。スラックスにシャツを着て、首元や手首に貴金属ジャラジャラで、セカンドバッグを持つあの感じ。
みかん箱の上に立って「度胸をつける練習」
――今ではどの球団もやっていない、当時ならではのトレーニングはありますか? 湯上谷:トレーニングじゃないけど、今考えるとおかしいなと思う声出しはありましたね。センターのフェンス前にみかん箱を置いて、その上に乗って大声を出す。 ――なにが目的なんですか? 湯上谷:大観衆の前で野球をするから、度胸をつけるという意味だと思います。ただ、それは建前で、先輩やコーチからの嫌がらせみたいなものでしょうけどね。 ――どんな内容を大声で叫ぶんですか? 湯上谷:中百舌鳥(大阪府堺市)にファームの球場があるときは、ライトスタンドの向こう側に団地が見えていたんですが、その団地に向かって叫ばされていました。「団地のみなさ~ん! 今日はいいお天気ですね~! 洗濯物もよく乾くでしょう~!」とか(笑)。 ――今なら普通に騒音問題になりますね(笑)。一人一回やらされるんですか? 湯上谷:いえ、ホームベースのところにいるコーチが手で◯(まる)のサインを出したら終わりです。声自体は全部聞こえてると思うんですが、面白いかどうかが基準だったと思います。 ――ということは、叫ぶ内容も自分で考えるんですね。 湯上谷:そうです。早く終わるために、大声でコーチを褒めるセリフにする選手や、フェンスによじ登って「ミーンミンミンミーン!!」と蝉のマネをする選手もいましたね(笑)。