小保方氏の博士論文 「学位は取り消さない」結論が導かれた論理
コピペされた博士論文「第1章」の重要性
また調査委員会は、博士論文の「第1章」におけるNIHウェブサイトからのコピペは、「学位授与に一定程度の影響を与えたとはいえるが、重大な影響を与えたとまでは」いえず、「学位授与との間に因果関係があったとはいえない」(53頁)との判断を下しています。 しかし、この判断には異論の余地があります。実は、筆者も文系ではありますが、博士号(社会学)を持っておりますので、博士論文の審査過程を経験しています。一般的にいって学術論文、とくに学位論文における第1章もしくは序章では、「先行研究のレビュー」が行われます。報告書も 「博士論文の導入部分として、博士論文で取り上げるテーマを理解するために必要となる前提知識や、当該テーマに関連する過去の先人による研究結果等を記載するものであり、論文作成者の学識、問題意識等を示す重要な部分であること」(53頁) と、第1章の重要性を認識しているのです。その第1章がコピペだということは、その論文の著者は、これまでの先人たちによる研究で何が分かっていて、何が分かっていないのかを理解しておらず、自分が行った実験とその結果によって何を明らかにしたのか、その歴史的意義も説明していないことになります。 したがって、「学位取り消しには当たらない」という結論は、自己矛盾をきたしているばかりでなく、学術論文の本質を踏みにじっているということになります。 早大がこの報告書の判断を受けて、小保方氏の博士論文についてどのような処分を下すのかは、7月23日現在、明らかになっていません。早大の結論次第では、同大だけでなく、日本中の大学が授与している博士号の価値が大きく引き落とされることになるかもしれせん。 (粥川準二/サイエンスライター)