幻のパン、ソロキャンプ場、多世代交流カフェ……移住者がつなぐ高齢化率「日本一」の村の可能性
「高齢化率日本一」で、数年前には「消滅可能性が最も高い村」として話題となった群馬県の南牧村(なんもくむら)。自治体としては不名誉な形で脚光を浴びたが、同時に「村で新しいことを始めたい」という移住希望者の注目も集めることになった。新緑のまぶしい南牧村で、それぞれの暮らしに取り組む移住者たちに話を聞いた。(取材・文:杉山元洋/撮影:深沢次郎/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
“幻のパン”を受け継いだのは村で初めての起業系移住者
群馬県の南西部に位置する南牧村。古くは刃物を研ぐ良質の砥石の産地として知られ、世界遺産や国宝に指定された富岡製糸場へ絹の原材料を供給する養蚕業で栄えたが、近代化の波にのまれ、大きな産業のない現在は人口1608人(2022年5月末現在)と過疎化。2014年には「消滅可能性が最も高い村」として報道された。
山あいを流れる清流・南牧川のほとりにある、日本一の限界集落が再び注目を集めたのは、2021年12月に開業したパン工房「とらのこぱん」の存在。「とらのこぱん」のルーツは、同村の桧沢地区で故・中沢虎雄さんが2003年に創業した「とらおのパン」にある。
南牧村産の木材を使い、石窯で丁寧に焼き上げられる「とらおのパン」が買えたのは「道の駅オアシスなんもく」のみ。店頭に並ぶやいなや即完売となるため“幻のパン”と呼ばれた。しかし2021年春に中沢さんは体調を崩し、パン作りを続けることができなくなったため、窯をふくむ工房を村に寄贈。その後、同年7月に中沢さんは病没し、多くのファンを悲しませた。 中沢さんの工房を使った事業継承の募集に手を挙げたのが、同村で林業を営むサンエイト企画代表の古川拓さん(28)。古川さんは都会の若者と村民が交流するイベントを主催する「なんもく大学」の事務局長として村に関わり、2年前に神奈川から移住した。
レシピのない幻のパンのおいしさの秘密を探し求めて
古川さんたちも「日曜日の朝はとらおのパン」と決めていたほど、とらおのぱんのファンだった。しかし、「中沢さんが『オレが焼くから“とらおのパン”なんだ』と言っていたように、レシピは中沢さんの頭の中にあって残されていなかったんです」と言う。 レシピのない秘伝の「とらおのパン」を再現するため、過去に新聞で取材された際の記事やテレビ番組の録画、ラベルの成分表示なども参考にし、試行錯誤してパンの再現に成功。そうして2021年12月18日にパン工房「とらのこぱん」をオープンさせた。