幻のパン、ソロキャンプ場、多世代交流カフェ……移住者がつなぐ高齢化率「日本一」の村の可能性
「無理だ」と言われたソロ専用キャンプ場を手づくりする女性移住者の奮闘
「生まれ育った群馬から離れて、その魅力に気がついたんです」と話すのは、群馬県高崎市出身の塚原陽子さん。現在、南牧村北部の山あいに建設中のソロキャンパー専用のキャンプ場「One and... Nanmoku-Another BASE」のグランドオープンに向けて大忙しだ。
20年以上神奈川で暮らしていた塚原さんがこの村に興味を持ったきっかけは、隣接する下仁田町にあるかつて祖母が住んでいた住居。 「祖母が亡くなって、住み手のいなくなった家が荒廃していました。思い出のある家だけでなく地域そのものを活性化するお手伝いができないかと思ったんです」(塚原さん)
その思いを父親に伝えたところ、「下仁田の先にはもっと深刻な問題を抱えた村があるから一度行ってみなさい」と教えられた。農園体験などの村おこしの企画を携え、南牧村役場へ提案をすることに。 OKはもらえなかったものの、計画を練り直しては提案し続けた塚原さん。ある日、「たまには一人ぼっちで焚き火でも眺めながらぼんやりしたい」と思い、ソロキャンプ専用のキャンプ場の建設を思い立つ。
役場に提案した企画の中には、セイヨウニワトコ(エルダーフラワー)の花を使ったシロップのエルダーフラワーコーディアルの特産化もあった。 「コーディアルは果実や薬草を使ったヨーロッパの伝統的なシロップのこと。エルダーはマスカットのような爽やかな香りが特徴で、炭酸水やお酒で割って楽しまれているんです」(塚原さん)
日本製にこだわったエルダーフラワーコーディアルを村の特産品にしようと、まずは栽培するための山を借りるため、塚原さんが村役場の担当者に案内されたのがこの場所だった。 「ここから南牧村の山々を眺めたとき、エルダーを植えるだけではもったいなさすぎると思った」と、ソロ専用のキャンプ場をつくることを決意。2018年のことだった。 その後、2019年の台風の被害で中断したものの、村役場や仲間の力を借りつつ、2022年5月に仮オープン。キャンプ好きたちの間で SNSなどを通じて話題になり、すでにリピーターがいるほどの人気を集めている。