なぜ浦和レッズは新型コロナ禍ルール適用の“没収試合扱い”懲罰に異議を唱えスポーツ仲裁裁判所に提訴したのか?
一連の経緯で見逃せないのが、鈴木の一件が浦和側の調査で判明し自己申告した点だ。同時に両チームから提出された選手たちのエントリーチェックを含めて、さまざまな重要業務を担うマッチコミッショナーは何をしていたのか、という疑問も浮上した。 しかし、懲罰が発表された時点で、担当マッチコミッショナーには何ら処分は科されていなかった。こうした状況を重視した浦和は、JFA不服申立委員会への異議とは別にJリーグへ提出した意見書のなかで、「試合に出場する選手のチェックという点においてはクラブ・Jリーグ双方に瑕疵があったと考えている」とこう綴っている。 「クラブは事実を確認し、報告し、処分も受け、内部的な処分も検討しているが、Jリーグは今後の改善策検討を表明したものの、チェックが機能しなかったことについての非は何ら言及していない。その責を問う規程が存在しないとしても、自らの非に向き合わず、クラブのみに懲罰を下すのがJリーグの『コモンセンス(常識)』だとすると、ファン・サポーターの共感を得て成り立つJリーグの発展には確信が持てない」 意見書が提出されたのは7月16日だったが、Jリーグは約1ヵ月が経過した今月12日になって、湘南対浦和を担当したマッチコミッショナーに対して、無期限の試合割当停止処分を科したと発表した。マッチコミッショナーが担うべきエントリーチェック業務を怠ったことが、民法上の善管注意義務違反に相当する――が理由だった。 そして、マッチコミッショナーの存在は、懲罰によって勝ち点が変更される初めての事案となった福島対八戸でも、図らずもクローズアップされている。 Jリーグが義務づける指定公式検査で陰性判定を受けていない選手を出場させたとして、福島にもけん責と勝利していた八戸戦を0-3の没収試合扱いとする懲罰が科された。この結果、首位のカターレ富山と勝ち点26で並び、得失点差でわずかに及ばない2位でリーグ戦を折り返していた福島は、一気に6位へと順位を下げている。 福島では4月下旬に新型コロナウイルスのクラスターが発生。エントリー資格がないまま八戸戦に出場した選手は隔離されていて、4月29日に実施された指定公式検査を受検できず、一度は八戸戦へのエントリー可能者リストから外れていた。 しかし、その後に保健所によるPCR検査や、クラブ独自で実施した抗原検査で陰性判定を受けた。このため、八戸戦当日に当該選手を加えたメンバーを提出したところ、担当するマッチコミッショナーから事前のリストとの齟齬を指摘された。 福島側が事情を説明すると、陰性判定が証明されれば八戸戦へ出場できる旨の発言がマッチコミッショナーからあったため、抗原検査の結果を提出して出場が認められた。しかし、浦和の一件もあって今シーズンのすべての公式戦をチェックしていたJリーグおよび同規律委員会から、今月3日になって懲罰処分に関する通知が届いた。 クラブの顧問弁護士をはじめとする関係機関と相談の上で、今後の対応を検討していくと表明した福島はJリーグへ提出した意見書のなかで、当該選手の出場は「マッチコミッショナーの認可によってエントリーしたもの」とこう綴っている。 「弊クラブとしては、マッチコミッショナーの認可がなければ、指摘に逆らって本件選手を試合に出場させる意思は全くありませんでしたし、事実上不可能と認識しています」