MEMS(メムス)とは何か簡単に解説、マイクなど「1人100個超」使用している身近な技術
MEMSの代表的な用途
MEMSはどのような用途で利用されているのか。代表的な例として、スマートフォンなどに搭載されているMEMSを挙げよう。 ■BAWフィルター(Bulk Acoustic Wave/弾性波フィルター) 当然のことだがスマートフォンは、電波を用いて、通話や各種データを通信する。通信する対象によって、使用される周波数は異なるし、また私たちの周囲には、TV、ラジオ、WiFiなど、さまざまな周波数を用いた通信電波が飛び交っている。 BAW(Bulk Acoustic Wave)フィルターは、スマートフォンが利用する特定の周波数の信号だけを通過させ、不要な周波数成分を除去する。 携帯電話網で利用される周波数は、国や地域によって多岐にわたる。そのため、スマートフォンは異なる周波数に対応するため、複数個の弾性波フィルターを必要とする。ワールドワイドで発売されるiPhoneなどでは、国ごとに異なる周波数に対応するため、さらに多くの弾性波フィルターを必要とする。なお、BAWフィルターと同様の役目を果たすSAWフィルターはMEMSには分類されない。 BAWフィルターは、SAWフィルターと比べて特に3ギガヘルツ以上の高い周波数帯で優位である。具体的には、高周波帯でSAWフィルターより帯域端の切れが良く(通過帯を少し外れると急激に信号を通さなくなること)、しかも大きな電力の送信信号に耐えられる。一方、製造コストはSAWフィルターと比べて高くなりがちである。 ■マイクロフォン 2010年に発売されたiPhone 4より、搭載されるマイクロフォンは、それまでのエレクトリックコンデンサーマイク(ECM)から、MEMSマイクロフォンに変更された。以降、その小ささ、実装の容易さ、低コスト性、安定した性能などから、ほとんどのスマートフォンではMEMSマイクロフォンが採用されている。 最近では音声認識機能、ノイズキャンセリング機能などをさらに強化するため、ワイヤレスイヤホンにより高性能なMEMSマイクロフォン、および音声加速度センサー(発声時の骨伝導による振動を検出するセンサー)が求められている。 ■ジャイロセンサー/加速度センサー/圧力センサー スマートフォンによっては、歩数系機能を搭載しているもの、さらには階段の昇降段数までも計測できるものもある。 これは、ジャイロセンサー、加速度センサー、気圧センサーなど、動きや位置を計測できる複数のMEMSセンサーのおかげだ。これらのセンサーの性能は極めて高く、たとえば気圧センサーは10センチメートル以下の分解能で上下移動による気圧変化を感知できる。そのため、階段を何段登ったのか、腕立て伏せを何回したのかといったことが計測可能となるのだ。 ■スピーカー ワイヤレスイヤホン(TWS(True Wireless Stereo)イヤホン)にも、複数種類のMEMSが搭載されている。マイクロフォンに加え、加速度センサー、タッチセンサーなどである。 加えて今後期待されるのが、MEMSスピーカーである。MEMSスピーカーは小さく、少消費電力である上、従来の電磁式スピーカーよりも高音域で圧倒的に優れている。したがって、まず、ツイーターとウーハーを搭載した高性能ワイヤレスイヤホンの電磁式ツイーターがMEMSスピーカーに置き換えられる。 スマートフォンやスマートデバイス以外では、ドローンにジャイロセンサーや加速度センサーが利用されており、今後普及が見込まれるVRグラスでも、MEMSセンサーは複数搭載されている。 自動車の自動運転を普及させるためには、レーザーレーダー、ミリ波レーダー、可視光カメラ、赤外線カメラなどの各種センサーが不可欠である。レーザーレーダーの1つ、LiDARでは、レーザーを前方に照射し、周知の地形や道路を利用する他車両などの3D空間情報を取得するが、LiDARの肝となるレーザーを各方位に動かすアクチュエーターとして、MEMS光スキャナーが使用されている。 また、医療分野では、市販の血圧計や人工呼吸器にMEMS圧力センサーが搭載されている。最新のPCR検査機では、対象ウイルスを検出するセンサーチップ部分をMEMSが担い、今まで数時間かかっていた検査結果が1時間以内に短縮されるといった迅速化に貢献している。 このように、MEMSは知らない間に私たちの生活に深く浸透しており、また今後さらなる発展も見込まれている。
監修:東北大学大学院 ロボティクス専攻 教授 田中 秀治、執筆:物流・ITライター 坂田 良平