MEMS(メムス)とは何か簡単に解説、マイクなど「1人100個超」使用している身近な技術
MEMSが普及した「2つの理由」
MEMSがここまで普及した理由を、MEMS研究の第一人者である東北大学 田中 秀治教授は「アフォーダブル」と「壊れないこと」という視点から説明する。 「アフォーダブル」(affordable)とは、「利用できる/入手可能な」といった意味だ。たとえば、自動車の自動運転においてレーザーセンサーLiDAR(ライダー)は不可欠だが、初期のLiDARは機械式で、その価格は数百万円だった。この機械式LiDARに替わるものとして、MEMS光スキャナーを採用した比較的低価格なMEMS LiDARが登場し、既に中国のEVに数十万台も採用されている。 また、スマートフォンに採用されているジャイロセンサーや加速度センサーにしても、MEMS以外の技術で製作され、かつ性能にも優れたセンサーは存在する。だが、いずれも高価である。「アフォーダブルであること」、つまり手頃な価格で調達できるかどうかという観点で、MEMSに勝るものはない。 MEMSは、さまざまな用途のセンサーやアクチュエーターを生み出せる上、先に述べたとおり、小さくすればするほど、コストメリットが出る。まさに、高い性能とアフォーダブルであることを両立しているのだ。 もう1点、田中教授が指摘した「壊れないこと」がある。多くのMEMSは、半導体製造でも用いられるシリコンを基礎材料としている。用途に応じ、ガラス基板や有機材料などを材料としているものもあるが、多くのMEMSがシリコン製だ。シリコンは、経年劣化が少なく、繰り返し動かしても耐久性に優れている。 一方、私たちの生活の中ではポピュラーな素材である金属は比較的加工も容易だが、実は使い方によっては耐久性に乏しい。 たとえば振動ジャイロセンサーでは、素子と呼ばれるコア部分を常に振動させ続けることで、センサーが受けるコリオリ力(回転体の上で動いたときに生じる見かけの力)を検出する。素子を金属製にすると、金属疲労を起こし変形、もしくは破断を起こす。だがシリコンであれば、経年劣化は極めて少なく、長期間稼働させ続けても壊れにくいし、品質も変わらないのだ。