MEMS(メムス)とは何か簡単に解説、マイクなど「1人100個超」使用している身近な技術
MEMSの市場規模とメーカーランキング
フランスの市場調査会社Yoleグループによれば、MEMSの市場規模は、2022年に150億米ドルになり、2030年には200億米ドルに拡大すると予測され、年平均成長率は5%と見込まれている。 Yoleグループのアナリストは、これまでMEMS市場を拡大してきたスマートフォン需要に加えて、ワイヤレスイヤホンやOTS(Over The Counter、処方箋無しですぐに買える)補聴器といった新たなウェアラブル端末、ADAS(Advanced Driver Assistance System、先進ドライバー支援システム)などの普及がMEMS市場の拡大に貢献すると分析している。
消費者向け・自動車向けの双方のMEMSを製造する、ロバート・ボッシュは、2014年以来、連続して首位をキープしている。2023年はコンシューマー製品の販売不調によってMEMS市場が3%縮小したが、同社は売上を微減に留めるなど、継続的に強さを示している。
MEMS市場における「日本の競争力」
拡大が見込まれるMEMS市場だが、相対的にMEMS市場における日本の存在感が減少しつつある。 全世界のMEMS生産数におけるメーカーランキングTOP 30を見ると、日本企業が2016年には10社ランクインしていたが、2021年には3社に、2022年と2023年には4社になっている。 こうした日本の存在感低下もあり、「半導体・デジタル産業戦略検討会議」(経済産業省)は、日本のMEMS開発・生産における現状について、強い危機感を呈している。たとえば、SAWフィルター、BAWフィルターについて、「供給途絶が生じた場合、社会経済が機能マヒに陥る恐れがある」とし、以下の課題を指摘している。 ・SAWフィルターのハイエンド品については、現在は日本企業が高いシェアを有しているが、一部の国の企業が政府支援等を背景に急速にシェアを拡大しており、外部依存性・供給途絶リスクが高まっている。 BAWフィルターについては、海外企業のシェアが高く、すでに外部依存性が高い。 (SAWフィルター・BAWフィルターに限った話ではないが)電子部品産業全体において、一部の国や企業では、工場誘致・技術者引き抜きなど、技術獲得を企図する動きがあり、技術流出の懸念が高まっている。 このうち、BAWフィルターは代表的なMEMSである。2024年11月には、BAWフィルターの製造力強化のために政府によるメーカー支援の決定が発表された。 日本でMEMS産業が伸び悩んでいる原因の1つに挙げられているのが、MEMSファウンドリの強化不足である。ファウンドリとは、半導体産業において集積回路等をウェハー上に受託製造する工場のことである。 いくら研究室レベルで優れたMEMSを作り上げようとも、あるいは、高い技術力を備えるスタートアップがあろうとも、大量生産できなければビジネスにはならない。その生産を担うMEMSファウンドリが十分に機能しなければ、国際競争力は上がらないのだ。 日本にとって、電子部品産業は極めて重要だ。電子部品産業は、全世界・生産額ベースで30兆円市場だが、そのうち33%は日系企業が生産している。そしてMEMSは、今後もさらなる成長が見込まれる成長分野として、注目される。 高性能な電子機器を小型化し、さらに付加価値を高める──。これは日本企業が得意としてきたお家芸である。トランジスターラジオやウォークマンの製品化などはその一例である。 余談だが、ソニー創業者の盛田 昭夫氏の「トランジスターを使った小型ラジオを作る」という計画に対し、トランジスターを開発したベル研究所は、当時のトランジスターの性能を鑑みて、中止するように勧告したという逸話が残っている。