“魅惑の骨の世界”をSNSで紹介する…生物の姿を蘇らせる骨格標本士の世界
◇動画配信が骨格標本士の道を変えた 骨の中には鋭いものもあり、怪我をした経験もあった。 「サメの歯は刃物や武器にできるほど鋭く、刺さって怪我をしました。あと、単純に肉を取り除く際に、メスで自分の手を切ってしまう場合もよくあります。怪我はつきものなんです」 怪我をしてまで夢中になる骨格標本作り。そこまでして人々に伝えたいことは、いったいなんなのだろう。 「伝えたいことは……ないんです。少しでも生物本来の持つ美しさに近づけたらいいな、と思いながら制作をしていますが、メッセージがあってやっているわけではないんです。 骨格標本を作る際も、自分の思いを作品に反映しないようにしています。個人の意思が入ってしまったら、それは学術的価値がある資料になりません。ただ、骨格標本を作る人が増えてほしいとは願っています。標本になっていない動物って、本当にたくさんいるんです。そのためにも作り手が増えてほしいですから」 骨格標本を作る人が増えてほしい。その気持ちはSNSを通じて、多くの視聴者にじわじわと広がってきている。TikTok、YouTubeなどの動画配信は若い世代に人気だ。「いのししの人さんの影響で自分も骨格標本を始めました」という若者からのDMも届くのだそうだ。 「動画の配信は、動物の入手先を拡大したくて人脈作りのために始めたんです。ところが、実際にやってみると、他ジャンルのクリエイターとつながりができたり、視聴者さんから“面白そうなので骨格標本を始めてみました”という声をいただいたり、予想外な展開になりました。 でも、それが自分の制作のモチベーションにもつながってきたんです。だからこそ、興味を持った人が制作の途中で挫折しないように、正しい情報を伝えなければならないなと思うようになりました」 骨格標本のHOW TOを発信する技術者が少ないからこそ、実践で得た知見をしっかり発信していきたいという。将来の夢や野望はあるのだろうか。 「チャレンジしたい動物は、クジラですね。死体を手にいれるためには許可が必要で難しいのですが、いつかはやってみたいです」 近い将来、クジラに立ち向かう彼の雄姿が配信される日が訪れるかもしれない。 (取材:吉村 智樹)
NewsCrunch編集部