“魅惑の骨の世界”をSNSで紹介する…生物の姿を蘇らせる骨格標本士の世界
◇「こいつ、こんな骨してたのか!」という驚き 大学卒業後は大学院に進学し、生物の進化形態学を研究した。この頃から、骨にも着目するようになってきたという。 「23歳のときですね。猪の肉を食べたあとの骨を“もったいねーなー”と思うようになりました。それで、見よう見まねで頭部の骨格標本を作ってみたんです。フリマアプリを通じて出品してみたところ、すぐにいい値段で売れました。“これは稼げるぞ”と、制作を始めたんです。狩猟で肉を得られるようになってから、食糧はあるけれど現金がない暮らしをしていたので」 生活のために肉だけではなく、骨も有効活用を始めたということだった。しかし、骨格標本の制作に挑んで以来、収入はもちろんのこと、知的好奇心がさらに湧きあがってきたという。 「猟友会の先輩たちが“これも骨格標本にできる?”“この動物にも挑戦してみないか”と、さまざまな死体をくれるようになったんです。ハクビシン・イタチ・キツネ・鹿など、手に入れた狩猟鳥獣はすべて骨格標本にしました。楽しかったですね。コウモリなんて、改めて“なんて面白いかたちなんだ”と感心しながら制作しました」 そうして、狩猟から次第に骨格標本へと関心が移っていった。魅了された理由は、やはり「かたち」だという。 「骨格標本の魅力って、やっぱり“こいつ、こんな骨していたのか!”という驚きだと思うんです。肉を取り除いて初めてわかる見た目との違い、ギャップ、そういう驚きを求めて、さらに没頭していきました」 まるで宝物を発見したような胸の高鳴り。骨格を通じて生命の神秘に触れた彼は、哺乳類のみならず、鳥類・爬虫類・両生類・魚類など多彩な生物へと対象の幅を広げていく。ワニなどは「アマゾンで購入する」というから、思わず「どのアマゾンですか?」と聞き返してしまった。 「これまで、いろんな動物を標本にしてきましたが、初めて触れる動物で成功する例はまずありません。教科書などありませんから、自分で経験するしかない。薬品の濃度などパターンを変えて、“これがいいかな”って選ぶなど、トライアンドエラーを繰り返して、やり方がわかってくる感じです」 初めては“ほぼ失敗する”という骨格標本作り。とりわけ完成までに時間がかかった生物は、ある軟骨魚類だった。 「エイは大変でしたね。標本化に成功するまでに約2年かかりました。構造的にはシンプルなんですけれども、乾燥させると居酒屋のエイヒレみたいに反り曲がりまくって、めちゃくちゃ変形するんです。 そこを薬品でどう抑えるかなど、方法を模索するのに時間がかかりました。30匹は使ったんじゃないかな? 漁師さんとのネットワークを築いて、“網にかかったら教えてください”と頼んで、そうやって手に入れていましたね」 エイと悪戦苦闘したおかげで、猟師だけではなく漁師にも顔が利くようになったと笑う。時間がかかるといえば、骨が細かくて多いヘビは1匹に半年を要したという。 「ヘビは延々と同じ単調作業が続くので、難しいだけではなく時間もかかります。ただひたすら心を無にして制作しています。骨格標本って、作り始めが楽しくて、作り終ったときはさらに楽しくて、制作中の時間がぜんぜん楽しくない(笑)。そういうものなんです」