なんと「あおり運転させない」クルマ…!ココロが「丸ハダカにされてしまう」自動運転が目指す衝撃の未来
「測定器」の進歩が広げた心理学の可能性
その一方では、「測定」についてのテクノロジーの進歩が、心理学の可能性を広げている面もあるようだ。 「センサーが小型化して、どこでも測定できるようになったのが大きいですね。2010年代になる頃までは心電計も巨大で私の背丈近くあったので、車載して公道で実験をおこなうことなどできませんでした。ステアリングに仕込めるぐらいのサイズになって(図「現在の測定器」)、研究が大きく加速しました。 いまは自動車にかぎらず、いろいろな場面で人間の感情を測れるので、研究者としては楽しくてしょうがないですよ。自分の子どもが生まれたときも、いい測定対象ができたとうれしくて、測りまくってました(笑)」 木村さんは産総研の人間情報研究部門というセクションの仕事を兼務して、そちらでは家電製品の使い比べ実験もしている。生理的な指標と被験者のコメントを合わせて分析して、何が「快」で何が「不快」なのかを分析する仕事だという。 「ときには、不思議なことに、生理的な指標では明らかに『快適』を示しているのに、本人の主観では『使いにくい』と感じている、ということもあるんです。そういうズレを見ると、人間の心はわからないものだと思いますね。だから面白いんですけど」 「心理学をやっていると『人の心がなんでもわかるんですよね』とよく言われます。でも、全然そんなことありません。むしろ私は、人の気持ちがわからないから、心理学をやってるんだと思っています。ずいぶん失恋もしてきましたし」 物書きの感情にも興味があるという木村さんには「どんな気持ちで原稿を書くんですか?」と逆質問もされたが、締め切りが迫るにつれて不安や恐怖感が高まっていく様子をモニターされるのは、ちょっと勘弁してほしいと思いました。 感情が「見える化」されたとき人類は幸福になるのか しかしそう考えると、測定器が進歩して、自分の心理状態がすべて「丸見え」になってしまうのは、いささか怖いような気もする。 「私も大学の授業では、学生にその話をします。仮に将来すべての感情が『見える化』されたとき、はたしてそれによって、人類はみんなハッピーになるのだろうか、と」 「自動車のような機械が、怒りや不安を制御することで安全性や快感情が高まるのは、もちろん、よいことです。でも、それこそ恋心や思想信条などは、究極の個人情報ですからね。技術的にその読み取りが可能になったときに、それをどこまで社会として受け入れるのか。今後はそういうことも、議論していくべき重要なテーマになると思います」 とはいえ、「快感情を高め不快感情を弱める技術」の発展は、人類に多くの恩恵をもたらすだろう。「あおり運転」のような感情的トラブルが減らせるなら、極端な話、犯罪やヘイトスピーチ、ひいては戦争のリスクだって軽減できるかもしれない。 いまの社会で心理学の果たす役割は、じつに大きい。そんなことを強く感じた探検であった。 *研究者の肩書き・所属は探検時のものです。 「あっぱれ! 日本の新発明 世界を変えるイノベーション ブルーバックス・ウェブサイトで人気を博していた「さがせおもしろ研究! ブルーバックス探検隊が行く」から人気記事を厳選、その後の最新情報を加えて、ブルーバックスに仲間入りしました。 企業秘密レベルの熱いイノベーションと、それをなしとげたクールな研究者たちの素顔に、われらがブルーバックス探検隊が迫ります!
ブルーバックス探検隊、深川 峻太郎