アメリカの有名大学が続々と「AIコース」を開設。アーティストの卵がAIを学ぶべき理由とは?
AI教育で法的問題や倫理面をどう扱うか
RISD、CMU、リングリング・カレッジの教授陣は、ChatGPT、Adobe Firefly(アドビ・ファイヤーフライ)、Stable Diffusion(ステイブル・ディフュージョン)などのツールがどうトレーニングされているかの基本を学生が理解すること、ツールごとの違いやトレーニングに何が必要かを知ること、さらにはAIツールを何のために、なぜ使用するのかを見極める方法を学ぶことが重要だと口を揃える。たとえば、フロリダ州立大学のデジタルアート准教授、キース・ロバソンはこう語る。 「AIを最も有効に活用できるのは制作プロセスの初期段階です。完成作品に直接用いるのではなく、コンセプトをより深く掘り下げるためにAIを活用するのが有益な方法ですし、アイデアを深めるのにAIを役立てられると思います」 ダカンによると、リングリングではアーティストステートメントを改善したり、作品に対するフィードバックを得たりするために、AIのテキスト生成ツールを使用しているという。つまり、AIは「学生がスキルを持たない分野における助け船」になるという。 AIの専門家はその一方で、AI教育には難しい問題もあると指摘する。たとえば、著作権や知的財産権をめぐっては複数の訴訟が進行中で、大規模言語モデルのトレーニングに使用されるデータセットの現実とのギャップや、アーティストの商業的・個人的な制作依頼への悪影響といった問題もある。 法律上の問題についてリングリングは、AIを使って制作した作品には著作権を主張できないことや、さまざまなツールから出力されたものに対する権利(または権利の欠落)について教えている。 フロリダ州立大学のロバソンは、AIに対する根深い不満の多くは、写真が発明された頃の批判に似ていると言う。 「ある部分を切り取れば、元の写真が持つ意味を変えてしまえますから、カメラで撮影した写真にも信用できない場合があります。つまり、カメラで嘘をつくことも可能です。AIに関して言われている問題は、ほとんどが昔からあったものなのです」 RISDのCTCプログラムでも、アンディ・ウォーホルがコモドール社製のPC、Amiga(アミーガ)で制作した画像や楽譜の歴史などの事例について教えることで、AIにまつわる法的・倫理的問題が新しいものではないことを強調している。ヴァラは歴史を知ることの重要性をこう説明する。 「新しい物事や法的問題を追いかけるより、授業でこうした過去の経緯をたどることが大切です。たとえば、Midjourney(ミッドジャーニー)やStabilityAI(スタビリティーAI)が何らかの理由で方針を変更するとしても、それは私たちにはコントロールできないことです。そうした変化に合わせるために、3年ごとにカリキュラムやシラバスを修正しなければならないという事態は避けなくてはなりません」