米大統領選、過去の大接戦と圧勝劇は? 早稲田塾講師・坂東太郎の時事用語
【接戦】2000年「ジョージ・W・ブッシュ×ゴア」
民主党のビル・クリントン大統領後継のゴア候補と父も大統領を務めたブッシュ候補の激突。アメリカ大統領選挙史上もっとも接戦となった選挙の一つです。あまりの混戦でフロリダ州では再集計となりました。得票はゴア候補が上回るも選挙人獲得数でブッシュ候補が勝ちました。 1996年の大統領選挙(クリントン勝利)と00年を比較すると多くの州で民主から共和勝利となっています。 ・ウェストバージニア(5人)・・・・南部 ・ケンタッキー(8人)・・・・南部 ・テネシー(11人)・・・・南部 ・フロリダ(25人)・・・・南部 ・アーカンソー(6人)・・・・南部 ・ルイジアナ(9人)・・・・南部 ・ニューハンプシャー(4人)・・・・東部 ・オハイオ(21人)・・・・中西部 ・ミズーリ(11人)・・・・中西部 ・アリゾナ(8人)・・・・西部 ・ネバダ(4人)・・・・西部 対して96年は共和だったが00年は民主という州はありません。つまり南部の6州(64人)をブッシュ候補は一挙に民主党から引き抜いた上に、中西部のオハイオとミズーリを手に入れたのです。特に選挙人21人を数えるオハイオの獲得は大きな勝因でした。 92年と96年の選挙で勝利を収めたクリントン候補は南部のアーカンソー州知事を務めています。00年の共和党ブッシュ候補はテキサス州(南部)知事出身。テキサスは選挙人34人の南部最大の州です。そこで地滑り的に南部票が民主から共和に移動したと推察されます。 もっともゴア候補も南部テネシー州選出の上院議員で「南部対決」だったにも関わらず南部票はブッシュ候補がゴッソリさらっていったのです。
少し「愚か」に見えた方が勝つ?
ブッシュ候補の勝因(ゴア候補の敗因でもある)はさまざま取りざたされています。面白い推論を1つご紹介します。それは「共和党候補が少し愚かに見えた方が勝つ」というものです。 ブッシュ候補は、大統領になってからも一部に“おバカ”エピソードを引いたジョークが広まります。同じような系譜に「ただの軍人」アイゼンハワー氏や「俳優上がり」のレーガン氏がいます。 前述の通り、アイゼンハワー候補に敗北したスティーブンソン候補はピカピカのエリートで、カーター候補はやせても枯れても現職、ゴア候補も見るからに「エリートが服を着ている」ような言動が売りでした。ふつうに考えると後者が勝ちそうなものですが、しばしば「傲慢」「相手への敬意を欠く」とみられるようです。 対して、多少発言などに難がある共和党候補には有権者が、愛すべき性格とか親しみやすいとか実直といった評価を与えられがちです。今回の「ヒラリー×トランプ」も民主党(ヒラリー・クリントン候補)がこれ以上ないというほど光り輝く経歴の持ち主に対して、トランプ候補は政治経験はありません。意外なようで、過去の大統領選挙を振り返ると案外とおかしくない組み合わせといえるかもしれません。
---------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】