“保健所”って何? コロナ禍で見えた重要性と課題
新型コロナウイルスの感染が拡大した第1波で、負担が集中し、人手不足が大きな課題となったのが「保健所」。コールセンターに電話がつながらず、PCR検査用の検体の採取や輸送にも時間がかかり、検査の遅れにつながったケースも相次いだ。再び感染者が急増してきた今、保健所の体制は大丈夫なのか、心配する声が高まっている。一方で、「保健所」と聞いてピンとこない人も少なからずいるのではないだろうか。保健所はどこが所管し、何を業務としているのか。コロナ対応で浮き彫りとなった要改善ポイントはどこにあるのだろうか。(行政学者・佐々木信夫中央大名誉教授)
保健所って何?
保健所の事を知らない人が意外に多い。名称はともかく、それがどんな機関でどんな仕事をしているか分からない。私たちは病気かなと思ったら病院に行くが、先に保健所に行くことはまずない。ざっと言えば保健所は住民が病気にならないよう予防や健康づくりを進める「予防・防波堤」の行政機関だ。大事な仕事だが、ある意味で地味な存在、そこで働く医師も外科、内科医と違い、大学医学部の公衆衛生学教室の出身者が多い。
日本の保健所は1937年の保健所法制定に伴い、最初は政府(当時の厚生省)の機関として全国に49か所設置された。戦後は地方自治体の機関となり2020年現在は469ある。 ただ、上のグラフでも分かる通り、30年前に850もあった保健所は6割以下まで減っている。地方分権、行政改革により保健所の統廃合が進み、職員数も減ってきた。今回のコロナ禍は、そんな対応能力の下がってきている現場を直撃した形だ。
設置者が異なる「5種類」の保健所
保健所の設置者も今は5系統に分かれ複雑になっている。大別すると都道府県が設置するもの(約75%)と一定規模の市が設置するもの(約25%)に分かれる。だが、一定規模の市には(1)政令市(2)中核市(3)政令で定める市(4)特別区――と4種類ある。 外に「県立保健所」「市立保健所」「区立保健所」といった標識がある訳でもなく、例えば同じ長野市内に長野保健所と長野市保健所の2つが並立している。この違いを一般の人は分かるだろうか。 しかも、都道府県が設置するものと市区の設置するものでは役割も微妙に違う。 都道府県型の保健所は、市町村と協力して医療機関や医師会、歯科医師会などと調整しながら食品衛生や感染症などの広域的業務、医事・薬事衛生や精神・難病対策などの専門的な業務、自然災害や原因不明の健康危機管理に取り組んでいる。 他方、市設置型の保健所は、上に述べた保健所の仕事に加え、市民の健康づくりや母子保健、生活習慣病対策やがん対策、狂犬病予防などの仕事が加わる。人口規模が20~30万人の中都市や70~380万規模の大都市に置かれる関係でカバー範囲も広がっている。 保健所は一般に、医師、保健師、栄養士、診療放射線技師、臨床検査技師、獣医師、薬剤師、精神保健福祉相談員、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、聴覚言語専門職など多種多様な専門職がおり、事務職員と合わせ、ある意味デパートに近い組織だ。