「そんな病気はありません!」安曇野の名医が「認知症」という言葉を使わない深いワケ
2024年1月から「認知症基本法」が施行された。いまや認知症は、国民病になった感がある。しかし、残念ながら認知症を上手に治療できる医師は多くない。なぜなら認知症は、ガイドラインに書かれるような「標準治療」に問題があるからだ。そのことに気づき、独自の方法で患者と家族に向き合う医師を東田勉著『「認知症」9人の名医』から紹介する。 【画像】死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由
認知症は「症候群」である
2016年に長野県安曇野市に「安曇野ななき診療所」を開設した岸川雄介医師は、「認知症」に関して卓越した持論の持ち主です。そのホームページには、冒頭に「認知症という病気はありません」と書いてあります。そして文章はこう続きます。 「ありもしない病気なのですから、認知症にかかったら、夜も昼もうろつき回り、大声を出したりわけもなく怒ったりするように人格が壊れていく、わけではありません。 認知症は症状群です。 脳機能低下によって生活がひどく混乱した状態です。脳機能低下が認知症なのではなく、適切な治療を行えば認知症状態になることを防ぐことができます。 生活がひどく混乱した状態ですから、患者さんだけではなく家族や介護者も苦しみます。 この苦しみも適切な治療で改善させることができます。不治の病の精神病だからとあきらめて、いたずらに大人しくさせることだけを考えて強い薬を使い、むやみに収容することはかえって患者さんだけではなく介護者の苦しみも大きくさせます。 私たちの診療所では、たとえ“もの忘れ”などの認知機能障害があっても、いかに認知症状態にならないようにするか、もうすでにひどい認知症状態になっている人のその症状をいかに軽くして本人・家族の苦しみを軽減していくかを考え、治療を行っていきます」 「認知症という病気はありません」と断言する岸川医師は、「認知症は症状群です」と続け、「認知症」と呼ばず「認知症状態」と呼んでいます。そして、より正確に診断し、収容しない治療を行う姿勢を、ホームページ上でこう続けるのです。 「治療の目的は“患者・介護者相互の生活改善”です。 まず、認知症状態なのかどうかを家族や介護者からの詳細な問診を行って判断します。認知症状態は生活の混乱なので、診察室で判断することはできないからです。 次に、患者さんの脳機能障害、原因となっている病気や環境因などを診断していきます。脳の機能障害は脳だけではなく、体全体の状態や生活環境も関わっています。脳は体の一部で認知症状態は生活の問題ですから、その全体を診断する必要があります。 原因、症状、生活状態が把握できたら治療プランを立てます。体を含む病気自体は私が治療を行いますが、生活状況の改善は私だけではできませんので、それぞれのご家族の事情を考えながら友人、知人、仲間などの協力が得られればお願いし、地域福祉担当者にも協力をお願いし、全員で相談しながら行います」