「そんな病気はありません!」安曇野の名医が「認知症」という言葉を使わない深いワケ
「がん」という病名がありますか?
東田:私も介護ライターとして、たまに介護職向けに認知症の講演をします。そういうときは冒頭で、認知症は症候群名であって病名ではないと言います。「がんという病名はあるのか?という問題と同じです。皆さんは診察室で『あなたはがんだ』と言われて、『はいわかりました』と帰りますか。必ずどこのがんか訊くでしょう。何のがんかによって違う病気だし、治療法も異なりますから。認知症もそれと同じです」と。 岸川:うん。少し時間をかけて説明するとわかってくれる。しかし、それを聞いたことのない人に話すと、そんな話は嘘だとなる。そういう常識が蔓延(まんえん)しているんです。うちの診察室に来た家族でも、「まだ認知症状態ではないですから、そうならないようにしましょうね」と言ったら、怒って帰っていった人がいました。 東田:診断をつけてほしいという家族は多いでしょうね。 岸川:そう。「認知症」という病名を欲しがる。 東田:要介護認定を取りたいという事情もあるのでしょうね。 岸川:20年前は違いました。僕が思うに、これは日本人の特性です。みんなと同じでいたい。そこから外れている奴を弾き出したい。常に隔離(かくり)しておきたい。だから、いつまで経ってもこの国の精神科病棟は減らないんです。
実に危険! 認知症の「印象診断」とは
東田:こちらの待合室の壁にこう書いてありました。 〈“認知症”と診断して、決めつけ、人生を諦めさせる……絶対にしてはいけません。原因・病気や症状を診断するのは、治療するためです。少しでも自分らしく生きられるように治療するためです〉と。 たとえばアルツハイマーだとか、レビー小体だとか、脳血管障害の後遺症だとか、前頭側頭葉変性症だとか、もっといっぱいあるのでしょうが……、それを診て、それが原因で生活障害が起こっているときに認知症という呼び方をする。ところがそういう順番を辿らず、いきなり最初から認知症と決めつけるケースが多いのですね。 岸川:多いというより、ほとんどの医師がそうでしょう。 東田:最初に「がん」だと告げてから、どこの「がん」かを調べるようなもので、あり得ないですね。 岸川:あり得ない診断ですが、多くの精神科医や心ない医師たちはそれで平気なんです。「印象診断」なのだと彼らは言います。印象診断で統合失調症だと診断して、それで閉じ込めてしまいます。そういう流れがあるから、認知症も印象診断なんです。認知症らしいとか、認知症っぽいとかね。実に危険です。 「印象診断」を退ける岸川医師。では彼はどのような診察・診断をしているのでしょうか。後編でくわしく紹介します。 後編記事〈「認知症」名医の診察を体験したら驚きの連続だった! なぜ「長谷川式」は行わず「眼を動かす」「手を動かす」?〉へ続く。
東田 勉(フリーライター・編集者)