中絶に収入依存した医師が女性器の美容整形に流れる…赤裸々な"施術メニュー"に見る女性の悩みと倫理問題
■第三の問題:女性器に対する非現実的な期待と思い込み 女性器形成の施術メニューを見てみると、次のような言葉が続く。「びらびら切除(小陰唇切除)」「名器形成(膣にヒアルロン酸注射・膣脂肪注入・膣を縫う・ハイフ照射などをして膣を小さくする)」「黒ずみ解消(レーザー照射や美白剤)「たるみ切除」「左右対称」「ふっくら若々しい大陰唇(ヒアルロン酸や脂肪を注射で注入してふっくらとさせる)」「クリトリス包茎手術(クリトリスの皮を切除する)」……。 女性器に期待される美の基準はあまりにも非現実的なものだ。シワ、たるみ、ひだや黒ずみもない女性器など存在しない。そもそも「名器」「若々しい」「びらびら」「たるみ」「黒ずみ」という言葉は、いったい“誰目線”のものなのか。また、膣に異物を混入してまで膣を小さくする必要があるのだろうか。社会の非現実的な期待や思い込みに沿った施術のように見える。 もちろん、なかには女性器の形のせいで健康被害が起こっている女性もいるだろう。そういった女性に対する女性器形成は決して否定されてはいけない。けれども現在、多くの国際的な医師団体が「美容を目的」とした女性器形成について警笛を鳴らしているのだ。 例えば、2022年に筆者が取材したスウェーデンの性科学者マーリン・ドレヴスタムさんは、「健康被害がない限り女性器の美容整形手術をする必要はない。すべての女性器はノーマル」と主張する。ドレヴスタムさんはスウェーデンの朝のTV番組に産婦人科医と一緒に出演し、さまざまな女性器のイラストを見せて“女性器に画一的な美しさはない”という点を強調したという。 また、1954年に設立された世界中の130カ国以上の産科・婦人科学会を会員にもつ国際産婦人科連合(FIGO:International Federation of Gynecology and Obstetrics)は女性器の美容整形手術(Female Genital Cosmetic Surgery:FGCS)は社会的・文化的な圧力や、身体に対する不健全な美意識に基づいて行われる場合が多いことを問題視し、「産婦人科医が美容的外性器手術を提案、推奨、実施、または紹介することは倫理的に許されない」と主張する。FIGOの「産婦人科医の倫理とプロフェッショナリズムのガイドライン」によると、WHOやユニセフなど国連機関も女性器美容整形(FGCS)に関してはFIGOと同調しているという。 さらに2013年には、英国王立産婦人科医会が「女性器美容整形(FGCS)を問題のないライフスタイルの選択肢として提示することは望ましくない」と指摘し、医学的適応がない限り、FGCSは行うべきではないと述べている。 とはいえ、女性器美容整形手術にはすべての医療従事者が反対しているわけではない。2021年6月にトルコ産婦人科医学会ジャーナル(2021;18(2):131-138)で発表された研究によると623人の医学部学生、産婦人科医や専門家を対象に行った調査では、半数の医学生や医師は女性器の美容整形施術は患者の希望があった場合のみ実施が可能で、自尊心、生活の質や性的機能の改善につながると述べている。つまり、医師や医療従事者の間でも賛否両論に分かれているというわけだ。