【登らない富士山】御中道―奥庭のトレッキングコースを歩いてみた!
ドーン! 大迫力の富士山が正面にそびえていた。ここは富士スバルライン五合目。山梨県側の登山道・吉田ルートの登山口になる。 今回は「富士下山」を推奨する富士山ネイチャーツアーズ代表の岩崎仁さんと御中道(おちゅうどう)―奥庭のトレッキングコースを歩いた。このあたりの標高は2200~2300メートルで、富士山の森林限界付近になる。御中道は、かつて5合目付近の山腹を一周する約25キロのコースだったが、現在は富士スバルライン五合目から御庭(おにわ)までの約2.5キロが通行可能だ。「御中道は富士山を信仰する富士講の修行の場でした。難所もあるため、昔は富士山に3度登頂した人だけが通行を許されたそうです」
岩崎さんの説明に気が引き締まる。登山者や観光客でごった返すバスターミナルから御中道に入ると、すぐに森が始まり、喧騒が消えていく。最初に注目したのはダチョウゴケ、イワダレゴケなどの苔類だ。「富士山は溶岩や火山礫(スコリア)、火山灰などが積み重なった火山なので、水を蓄える力は弱い。代わりに苔類が水を蓄え、森を支えているのです」と岩崎さん。 少し先で見つけたミヤマハンノキもユニークだ。植物の成長に欠かせないチッ素を得るため、大気からチッ素を吸収する根粒菌と共生しているのだ。さらに自らの葉を青いうちに散らし、そこに含まれるチッ素を根から吸収するというからすごい。
森を抜けると視界が開け、左側に富士山頂、右側には青木ヶ原樹海や河口湖、本栖湖などが望めた。山側にはカラマツの若木が目立つが、そこにもドラマがあった。最初、オンタデのような多年草がパッチ(個体群)を作る。すると根が密集して中央部が枯れ、ドーナツ型になる。こうして、溶岩と火山礫ばかりの場所に養分が蓄えられ、偶然に運ばれたカラマツの種が発芽するという。 「富士山の誕生は数十万年前といわれます。最新の科学技術でも5600年前までしか遡れませんが、その間に180回も噴火しています。さらに雪崩もあり、極限の環境を生き抜いた草木もいつ淘汰されるかわかりません」 そう聞くと、いま見えている草木や昆虫、鳥などは、奇跡の証しといえるのかもしれない。岩崎さんは「富士下山を通して、自然に親しみ、理解を深めてもらい、守りたいと思える人材を育みたい」と願う。その思いがひしひしと伝わってきた。