マツダ「SKYACTIV-X」 ドイツ試乗で分かった“夢のエンジン”の潜在能力
筆者の率直な感想では、夢のエンジンにしては燃費はそれほどでもないと思った。20Km/Lのラインに肉薄するかと考えていた。ドイツの交通の流れは日本と異なるからという可能性はないわけではないが、マツダ自身が「このエンジンは使い方による燃費のブレが少ない」とアナウンスしており、あまりブレはないと考えると、少々期待外れ感はある。 とは言うものの、左下の平均加速Gが0.6(MT)と0.7(AT)という数値を見ると、まあずいぶんと元気よく加速している。実は筆者本人にはそんなにアグレッシブな運転をした感覚はない。しかもエンジン回転の分布は比較的回したMTですらほぼ3000rpm以下に集中していることを考えると、いかに中低速のトルクが太いかがよく分かる。中低回転を使ってそれだけの平均加速を生み出していることになるからだ。それだけ力があって速いにも関わらず、SKYACTIV-Gに対して15%以上の燃費向上は確かに小さくない改善である。 さてこの資料で最も注目すべきは右下である。圧縮着火が全く行われていなかったのはMTで約10%、ATなら約6%である。 このエンジン全体の感想は「優等生」。難しい切り替えをしながら、どこからでも遅滞なく加速し、信頼感があるもの。カミソリの様な切れ味はないが、ナタのような凄みがある。プロトタイプをよくここまで仕上げたものだと感心した。
試乗を終えてから、さらに驚くことになる。マツダの「ミスターエンジン」こと、常務執行役員・シニア技術開発フェロー 技術研究所・統合制御システム開発担当の人見光夫氏に「プロトタイプの段階でよくあそこまでしつけましたね」と言ったら、「あれはまだようやく回るようにしただけです。味付けはまだこれからです」と言う。表情を伺うとどうも本気らしい。それであれだけのフィールを出すのだとしたら、マツダが主張するMBD(Model Based Development)によるシミュレーションの成果は凄まじい。 最後に冒頭に書いた燃料のスペック、「ガソリン95RON」が気になっている人もいるだろう。「日本だとハイオクが必要なのではないか?」。実はこのエンジン、ハイオクを入れてはいけない。オクタン価とはノッキングの起こし難さの指数だから、ノッキングのメカニズムを利用して圧縮着火させているこのエンジンは、レギュラーガソリンの方が性能は向上するのだ。 どんな展示がされるかは分からないが、10月28日から始まる東京モーターショーには、このエンジンと次世代シャシーに関する何らかの展示がなされると聞く。興味のある方は是非会場に足を運んでほしい。 -------------------------------- ■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』(プレジデント社)がある